最近、仕事が忙しくて本屋に行く機会が減っていた。仕事を週末にやることもあり、じっくり本を読むことが少なくなっていたということもある。しかし、仕事が若干落ち着いたので、ようやく本屋に行くことが出来るようになった。この本は、久しぶりに本屋に入ったら置いてあった。「生涯投資家」というタイトルを見つけた時、個人的に投資に興味がある自分は手に取ってみた。著者:村上世彰。その時点で、中身を確認することなくレジに並んでいる自分がいた。

株式会社M&Aコンサルティング、通称村上ファンド。僕が学生時代、もっと言うと偏差値30代の、世の中を何も知らなかった時代に、日本企業に次々と投資を行い「ものいう株主」として日本中から注目を浴びていたファンドを率いていたのが、著者である村上氏であった。当時のテレビを見ると、少なくとも友好的な報道はされていなかったように思える。実際、僕も当時の村上氏に対する印象と言えば「欲張りでお金さえ手に入ればどんなことでもする」といったものだった。

高卒で働き始めて色々な現実を知り、一発奮起して入学した大学でほたすら勉強をして金融の世界に興味を持った。というか、お金を何としても稼ぎたかったのだが、当時の僕に考えつくのは「投資」もしくは「IT分野で起業」というくらいしか思いつかなかった。全く理系ではなかったので投資の勉強を開始したのだが、ここで村上ファンドをほんの少しだけ知り、当時の僕はメディアに踊らされていたクソだったという事実を知ることになった。

村上ファンドの投資

村上ファンドが行っていた投資は、簡単にいうと現金などをため込んでいる企業に対し投資を行い、現金の有効利用などを株主の立場から要求することによって企業価値を向上させ、投資のリターンを得るようなものである。めちゃくちゃまとめてしまうと、クソみたいな経営陣に株主の立場から「お前ちゃんとしろよアホか」と叱責してちゃんと経営をさせることを通して利益をあげる投資だったのである。

調べれば調べるほど、村上ファンドを何を考えて運用してたのかが知りたかった。しかし、村上氏が多くを語ることは無かったため、その欲を満たすことはできなかった。それから10年弱。ついに本屋で、村上氏が書いた本を手に取ることができたのだ。ここで、冒頭に戻ることになる。

感想

この本は、村上氏が一貫して主張する「日本におけるコーポレートガバナンスの浸透」を目指して、彼が行ってきた投資案件と共に、どのようなことがあったのかを記載するようなスタイルとなっている。当時テレビをにぎわせていた投資案件の裏にはどのようなことがあり、どのような経緯で投資に至ったかを本人目線から知ることができて、それだけでもかなり貴重なものであるといえる。この本の中では、株式会社を自分のものと勘違いしている旧態依然とした経営者として全く成り立っていない醜いアホどもを覗き見ることができる。特に僕が大嫌いなテレビの経営者は本当に悲惨な思考回路をしているのが記載されていて、「あ、やっぱりアホなんだな。」と再確認することができた。

彼は、投資家として経営者にプレッシャーをかけることにより、経営者がコーポレートガバナンスをしっかりと意識することになり、適度にレバレッジを効かせて利益をあげ、その利益を企業の更なる投資や株主に還元することによって資金の循環を生み出すことになると主張している。確かに株主からすれば自分が投資したお金が現金預金として会社に蓄えられている必要は全くなく(そうれあれば自分で預金すればよいだけ)、経営者にそれらの資金をリターンを生む投資に回してもらい、リターンを得るのが重要である。株式会社なのだから利益を生む必要がある。生み出した利益は株主に還元する。還元を受けた株主は別の投資を行う。こうして資金が循環し、景気が良くなる。村上氏は、そんな資本主義の基本の「キ」もわからない経営者たちと株主の視点から闘ってきたのだと思う。最終的にああいった形にはなってしまったが、彼のおかげで株式市場に興味を持った人材が日本に増加したのは間違いないと思う。

※ちなみに、僕は彼が考える株式会社のありかたより、若干保守的な考えを持っていて、会社はレバレッジを効かせなくても良いと考えている。企業が倒産をするのは借入が存在するためと考えるからである。借入を行わずに極限まで資金効率を高めること及び資本の積極的な償却により、高いROEとROAの両立は可能だと考えている。工場の増築や新規設備の投入など、大規模な投資が必要になる際には自己資金の活用と融資や株式の発行による資金調達を並行すれば良いと考えている。会社はまずつぶれないことが大前提であり、それを達成するためには無借金かつ効率的な資産活用が必要であると思う。もちろん、これは資産の大半を現金預金として持ち続ければ良いという意味ではない。

この本から読み取ることが出来るのは、当たり前だが彼も一人の人間ということである。東日本大震災のときの動きなども書かれているが、これを読む限りでは、確実に僕より世の中のために行動を起こすことが出来る人間であることがわかる。どうしてこの本を書くことになったのかについての箇所を読むと、彼の人間としての温かみを感じることが出来る。日本の古い慣習を守るために、異端児を吊し上げる日本の社会がどれだけおかしいことをしているかを知ることが出来る。

留意点として、彼の投資手法はどのようなものであるかという点について詳しく記載するものではないという点には注意が必要である。期待値に基づく投資を行っているという簡単な記述はあるものの、それを読んだだけで彼のような投資が真似できるものではない。

頭の整理が出来ていない中での記載になるので、あまりまとまってはいないが、個人的には読んでよかったと思える本だったと思う。2017年7月現在、大企業である東芝の、苦笑いしか出てこない役員たちの発言をニュースで見て、村上氏が目指す社会にはほど遠いのではないかと思うこともあるけども。

彼に対し、当時の負のイメージだけを持っている人も、一度確認してみてはいかがだろうか。本の著者紹介の写真を見るだけでも、驚くことになると思う。