リスクをとれる人、とれない人

最近よく「リスクをとれ」なんて文言を目にします。成功したければ、リスクを取って突き進もう、と。あなたはリスクをとれる人間でしょうか。それとも、安全志向の人間でしょうか。今回は、そんなお話をしていこうと思います。

さて、突然ですが「大戸屋」をご存じでしょうか。健康路線を突き進んでいるチェーンの定食屋で、コンセプトに「もうひとつの食卓」を掲げています。主に関東を中心に出店していますが、日本全国に店舗があるため、知っている人が多いと思います。「チキンかあさん煮定食」や「鶏と野菜の黒酢あん定食」など、おいしくバランスの良い食事がとりたい人が足を運ぶお店となっています。食べたくなってきた

さて、今回はその大戸屋そのもののお話ではなく、その大戸屋に頻繁に通う2人の人間の話をします。あらかじめ隠さずに言うと、そのうちの1人はです。そしてもう一人は、実在する僕の後輩です。ただ、誰だかわからないように、事実を少し捻じ曲げています。その点はご了承ください。

大戸屋四天王編

何を隠そう、僕は大戸屋ヘビーユーザーです。新入社員時代は超がつく貧乏だったので大戸屋は高級レストランだったのですが(参考:最強の節約術)、監査法人に入っていくらかお金をもらえるようになり、週に何度も行くような生活を手に入れました。夢のようです。そして、僕には大戸屋で大好きなメニューがいくつかあります。箇条書きで紹介させてください。

  • 鶏と野菜の黒酢あん定食
  • すけそう鱈と野菜の黒酢あん定食
  • 香味唐揚げ定食
  • 大戸屋風チキン南蛮定食

僕はこれらのメニューを敬意をこめて「大戸屋四天王」と呼んでいます。これら以外にも新商品が出たときは、ごくまれに試すこともありますが、基本的には大戸屋に行ったときは上記メニュー内で頼む確率が90%(僕調べ)を超えています。その日の気分で上記4種類の中から何を食べるか決める感じです。なので、これらのメニューがなくなったり、変な工夫が加えられたときは僕のルーティーンに大きな影響がでるので非常に深刻な事態になります。

正直にいうと、僕は大戸屋でこれら以外の商品を頼む人の気が知れませんでした。「なんで大戸屋四天王があるのに、わざわざ違うメニューを頼むのだろう」と疑問に思っていました。そうです。僕は非常に器が小さい人間なのです。大戸屋では上記4品から注文すると間違いなく良い気分でおいしく食事ができる、そう信じて疑いませんでした。

さて、ここで話は少し変わります。あるとき、後輩が新卒として私と同じプロジェクトに入ってきました。もう少し細かく言うと、同じプロジェクトの別チームに入ってきました。同じ財務部だけど、僕が連結チームで、後輩はキャッシュチームみたいなものです。仮にこの後輩をAさんとしましょう。ハッキリ言って、このAさんが日本の会社の空気をさっぱり読めないタイプだったのです。率直に言うと、速攻で浮いてました。ただ、これまでの法人生活でピリピリした空気やパワハラ*を生き延びてきた僕としては、ピリピリした空気の現場が大嫌いなわけです。そのため、まだ法人のことをわかっていない人が、僕がいるプロジェクトに入ってきた場合は、積極的に良い人オーラを出してチームとその人の架け橋になり、チームの輪を和ませる役割を担うようにしています。そうです。僕は良い人なのです。

*監査法人におけるパワハラですが、僕が入所したときは若干「マジか?」ということもありましたが、時代の流れもありそういったことはめちゃくちゃ減少しました。僕よりさらに先輩の話を借りるとするならば「今の労働環境は奇跡」とのことです。名言ですね。

僕はAさんにチームの輪に入ってもらうため、作業部屋に2人で残った時に積極的に話しかけて仲良くなっていきました。出身や大学、どうしてウチにきたのか、面接官は誰だったのか、趣味、頭がおかしいパートナーの話題、などなど、自分の話も交えながら心を開いてもらいます。

ちなみに、初対面のやり取りが苦手という人は結構多いと思います。正直僕もめちゃくちゃ苦手です。上記のような感じで初対面から気さくに話しかけるので、明るい感じの人だと思われることもあるのですが、素の自分は人より本が好きな陰キャラです。ただ、大学時代に初対面でもガンガン話しかけにいける尊敬しているサークルの先輩がいたのですが、その人に「初対面とか超苦手なんですけどなんでそんなガンガンいけるんすか」と聞いたときの、その人の発言を今でも覚えています。

「一回目で出来るかぎり仲良くなっとくとお得やし、中途半端やと次に会ったとき逆に気まずいやろ?」

なるほど、だから初対面の時にできる限り仲良くなっておくと良いのだな、と当時は関心したのですが、この当時のやり取りがこんなときにまで影響するとは、人生わからないものですね。

話が脱線しすぎたので本題に戻ります。

大戸屋全メニュー制覇編

さて、このAさんも徐々にチームの輪に打ち解けて、スムーズにプロジェクトが進んでいきました。そんなある日のこと、いつものように仕事を行い、Aさんとランチに行くことになりました。僕が何気なく「大戸屋とかどう?」と提案してみたところ、Aさんから衝撃の発言が返ってきました。

「大戸屋は家の近くの店舗で全メニュー制覇したから、別のところが良いです」

僕はAさんが何を言っているのか理解できませんでした。全メニュー?制覇?四天王は?衝撃を受けて、何とか口にしたセリフが以下になります。

「なっ・・・?」

人間は意外なことでびっくりすると、まるで自分のものとは思えない客観的な声が口からでます。知ってましたか?僕はこの瞬間まで知りませんでした。詳細を聞いてみると、Aさんは家の近くに大戸屋があり、自炊をせずに大戸屋の常連になっているそうなのです。一人暮らしの自炊は負担が大きいので納得ですね。そして、驚くべきことに、毎回違うメニューを頼んでいるとのことです。大戸屋では基本的に同じメニューをルーティーン化して注文する僕からすればこれは驚きでした。純粋に疑問に思ったので、「どうして?」と聞いてみたのです。

「え、だって色んなメニュー頼んだ方が楽しいですよ。そっちの方が良くないですか」

「でも、おいしいってわかってるの頼む方が良くないかな」

「わかってるの頼んでも飽きちゃうじゃないですか」

これらのやり取りを通して、世の中には様々な人間がいるんだな、と素直に関心しました。僕のように、「これはおいしい」となるとそれを何度も繰り返すことを楽しむ人もいれば、それより、今まで経験したことがないことに喜びを感じ、果敢に未経験の物事に挑戦する人もいます。僕の立場から言えば、よく毎回の食事で「おいしくないもの」を食べるリスクを取って未経験のメニューを選ぶことができるなと思うのですが、Aさんにとっては、もしかしたら、新しいものを頼むことは別にリスクとも何とも思ってないかもしれません。

ということは、僕も常日頃からこれまで食べたことがないものを頼む訓練を積んでいくと、リスクに対する許容度が上がっていくのかもしれません。リスクを取って挑戦することが苦手な僕からすると、仮に「日常のほんの少しの出来事」で軽いリスクをとる訓練をすることで、将来的に影響の大きいリスクをとる訓練につながっているのだとすれば、それは見逃すことが出来ない事象です。リスクを取れる・取れないは生まれつきな性質ではなく、日常的に訓練可能という可能性があると、今後の生き方に大きく関わってくることになります。

「たかがご飯でこいつは何を言っているんだ?」と思われる方もいるかもしれません。あなたは正常です。その感性を大事にしてください。

後日談

そんなAさんから、先日社内チャットで連絡がきました。

「ランチしませんか?」

何か悩みでもあるのかと思い「んじゃ今日はどう?」と速攻で返事をします。僕みたいな平凡な社会人、略して凡人は他人とあまり差をつけることができません。ではどこで差別化を図るのか。それは「スピード」です。何かの本で読みました。さっそくランチすることになったのですが、Aさんはランチ開始とともに本題に入ります。

「あきおさん、私、転職することになりました。」

「おー!おめでとう!どこに行くの?」

「外資の金融機関にいきます。」

「!?」

この後、年収の話とか、福利厚生の話とかしましたが、完全にキャリアアップ型の転職でした。文句なしの成功と言えます。正直羨ましい。そして、ランチが終わって料金を支払う段階になったとき、Aさんがこう言いました。

「私がこの法人に入所したとき、正直全然なじめなくて、すぐにやめようと思ったんですが、あきおさんが仲良くしてくれて助かりました。なので、今回はごちそうさせてください。」

そうです。Aさんは良い人なのです。

このとき、なぜか上記の大戸屋のメニューに対する僕たちのスタンスの違いが鮮明に脳裏によみがえりました。あぁそうか、Aさんは普段からいつもと違う選択肢を選ぶこと、つまり小さなリスクをとることに躊躇がないんだなぁと。そして、仕事もどんどん新しいことに挑戦して、ついには外資の金融機関にまで挑戦し、内定を得ている。本当にすごいことです。

僕は、外資系金融機関と監査法人での優劣を語るつもりもありませんし、一長一短あると思います。そして、現状の監査法人でのキャリアに大きな不満はありません。僕の人生を振り返ると、監査法人に所属しているなんて想像もできないことですし、「目指せ1回の食事は300円未満」だった新入社員時代を考えると、今の待遇は本当に恵まれていると思います。ただ、客観的な事実だけを見ると、Aさんは僕より後輩ですが、僕より恵まれている待遇の会社に転職することが決まりました。

もちろんリスクを取る取らないで転職が決まるわけではありませんし、人生が良くなるとも限りません。ただ、1回限りの人生、たくさんのことを経験して生きていくのもありなのではないでしょうか。あらためて、そう感じました。

ということで、この記事を転職して新天地で頑張るAさん、そしてリスクを取って新しいことに挑戦する人へ送ります。

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