全集中:パンの呼吸

とある日のことです。コンビニでクリームチーズシナモンロールを購入し、会社にある自動販売機で「ゴミみたいな味がする」と同僚が酷評した無料のコーヒーを選択し、朝食の時間を始めました。「会社で朝食とか社畜かよ」と思われるかもしれませんが、その通りです(キリッ)。

その日、なぜだかふと思いついて、スマホもPCも見ずに、購入したパンと全力で向き合ってみることにしました。

目を閉じながらパンを口に運び、噛み応え、鼻から抜けるにおい、触感、味などをしっかりと捉えようとしてみます。すると、まずはシナモンの味が口の中に広がり、あれよあれよという間にクリームチーズに味に変化、というよりシナモン+クリームチーズが混ざった複雑な味に変化し、そこからはよくわからない味へと変わっていきました。要するに私レベルの口ではこのパンの味わいを的確にとらえることが出来ないのです。

続いて、目を開いてパンの断面を見てみました。思ったより複雑に幾層にも分けられたシナモンロールの断面が見えます。「こんな断面になっているのか」と、驚くことになりました。そもそもパンの断面を真剣に見たことが人生で1度も無かったかもしれません。

ふとそこで、たったパン1つだけでとても静かな、優雅な時間が流れていることに気が付きました。普段は当たり前のように手に入れて食べることが出来るパンですが、しっかりと向き合うことにより、人間が本来持っている味覚、嗅覚、触覚などがどのように働いているのかという、様々な気付きを与えてくれるのです。

そういえば、パンに限らず、いつからか食事としっかりと向き合ってこなくなっていたと思います。いつも食事中と言えばスマホで情報収集をしているか、会社のPCで仕事をしているか、という何かと平行しながらするものに成り果てていました。画面の奥にある膨大な情報を取り込むのに負けず劣らず、目の前のリアルな料理に向き合うのも大事な時間なのかもしれません。

そこで、隣に置いていたコーヒーに目が移ります。同僚に「ゴミのような味」と酷評された無料のコーヒーにだって、きっと何かしらの発見があるはずです。口に含んで、向き合おうとしてみます。

うん、いつも通りおいしくない。私は、考えることをやめました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)