USCPAの勉強。棚卸資産の評価方法について。長文です。

Inventoryの評価方法

前回の「棚卸資産(範囲・測定)」ではInventoryについて、Inventoryの範囲、含める金額、測定方法についてみてきました。今回は、Inventoryの評価方法をみていきます。

実務上、購入するInventoryの金額が変化するということは日常的に発生します。何か月も同じ商品が同じ値段ということはありえません。そのため、どのようにして購入するInventoryの金額を評価するのかが重要となってきます。Inventoryの評価の方法によって、Ending inventory(期末在庫)の金額が変わるため、COGS(売上原価)が変化して最終的な利益に影響を与えるためです。

Inventoryの主要な評価方法

Inventoryの主要な評価方法として、4つの方法があります。注意点として、それらの方法を会社として採用した後に「やっぱり別の方法が良い」といって簡単に変更が出来ません。毎年最も利益が出る方法にコロコロ評価方法を変えることは許されないのです。以下が、4つの基本的な方法になります。

  1. Specific identification(個別法)
  2. FIFO(First-in, First-out:先入先出法)
  3. LIFO(Last-in, First-out:後入先出法)
  4. Weighted Average(加重平均法)

現在では3のLIFOはIFRS(国際財務報告基準)で認められていないため、そこまで重要ではありません。それでは、それぞれについて説明していきます。

1.Specific identification(個別法)

Specific identificationとは、その名の通り、Inventoryを購入した際に原価を個別に計算していく方法となります。販売時にも、どのInventoryがどれだけ売れたのかを記録するため、ある意味もっとも正確に原価を知ることが出来ますが、あまりにも作業が膨大になってしまいます。この評価方法が向いているのは、単価が非常に高く、めったに売れることのない数億円の宝石を販売している会社などでは採用されているかもしれません。在庫の全てをきっちり管理しないと大変なことになりますから。

2.FIFO(先入先出法)

こちらも名前の通りになります。「先に仕入れたものが先に出ていくと決めつける」方法になります。First-inしたものが、First-outすると仮定して計算するのです。つまり、最初に購入したInventoryから順番に売れていくという方法です。例えば、ある会社がFIFOを評価方法として採用した場合、実際にはそうなっていなくてもそうなっていると仮定して計算するのです。

この方法を採用すると、Ending inventoryの金額は実態に即したものになります。最初に仕入れたInventoryから出ていくと仮定しているので、最後に残っているのは最後に仕入れたInventoryの値段ということなので、Ending inventoryの金額が現実と大きく乖離することはありません。

ただ、今の日本が狙っているように、物価がインフレしつつある局面では、FIFOを採用しているとCOGS(売上原価)が過小評価されやすくなります。COGSの求め方はBeginning + Purchase - Endingなので、Ending inventoryの金額が大きいと必然的にCOGSの値も小さくなるのです。

3.LIFO(後入先出法)

こちらも名前の通り、最後に仕入れたものが先に出ていくと仮定する方法、つまりLast-inしたInventoryがFirst-outするという方法になります。こちらの方法の特徴としては常に最新のInventoryが売れていると仮定するので、COGSが現実と大きく乖離しないということになります。逆に、Ending inventoryが古い金額となるので、インフレ局面では過小評価されているということでもあります。IFRSでは禁止されている方法になりますので、試験でもそこまで重要ではないかもしれません。

4.Weighted Average(加重平均法)

こちらも名前の通り、平均して計算する方法になります。こちらの方法はBeginning InventoryにPurchase、つまり仕入れた分を全て加算したものの合計から個数で割ることにより平均単価を算出して、その平均単価にてEnding inventoryの個数にかけることによって金額を計算する方法になります。計算式としては

(Beginning Inventory+Purchase)←金額
÷
(Beginning Inventory+Purchase)←個数

でAverage Unit Cost(総平均単価)、つまりInventoryひとつあたりの単価を計算します。そのあと、その単価をEnding inventoryの個数にかけることによって、Ending inventoryの金額を算出します。こちらの方法はPeriodic inventory systemの場合はWeighted Averageと呼ばれますが、Perpetual inventory systemの場合はMoving Average(移動平均)という呼び名になります。Moving Averageの場合は取引の度に平均を計算することになります。

以上でInventoryの評価方法を終わります。次に、別のトピックであるLCM(Lower of cost or market:低価法)について説明していきます。

Inventory:LCMについて

LCM(Lower of cost or market)、つまり低下法とは、Inventoryの評価方法となります。上の4つの方法に混ぜるとこんがらがるので、別のトピックと割り切って勉強したほうがわかりやすいと思います。LCMのポイントは、CostかMarketの低い方を選ぶということになるのですが、手順の前にLCMに関する用語を覚えた方が理解につながります。

LCMの用語

  • Cost:上記の4つの評価方法で算出された原価
  • Original cost:Costと同じ意味。Historical costとも言われる
  • Market:時価。試験では下記3つから求める必要があります
  • Net realize value:Inventoryの販売価格から販売コストを引いた額
  • Replacement cost:Inventoryを再調達する際にかかる価格
  • Net realize value-Normal profit:上記Net realize valueから利益を引いた額

複雑に見えますが、手順に慣れれば結構簡単です。下の3つの中からMarket valueを選び出し、上のCostと比較して低い方を選ぶだけです。では、具体的に手順を見ていきます。

LCMの手順

LCMの手順は、以下の順番で進めていけばOKです。

  1. Marketの3つの金額を比較
  2. 3つの中から真ん中の金額のものを選択
  3. 選択したMarketとOriginal costを比較
  4. MarketとOriginal costの低い方をInventoryの金額とする

こちらは実際の問題を見ればわかりやすいので、実際に問題を解くような形で説明したいと思います。問題文では、下記のような情報が与えられます。

Original cost:15ドル
Selling price:20ドル
Selling cost:2ドル
Normal profit:6ドル
Replacement cost:14ドル

これらの情報をもとに、上記の手順にしたがって進めていきます。まずは、Marketの3つの金額を比較する必要があります。

1.Marketの3つの金額を比較

Net realize valueが見当たりませんが、Selling priceからSelling costを引いたものがNet realize valueになります。これを計算すると「20-2」で18ドルになりますね。次にNet realize value-Normal profitです。「18ー6」で12ドルになります。最後にReplacement costはすでに記載があります。14ドルですね。これらの金額を比較すると以下のようになります。

Net realize value:18ドル
Replacement cost:14ドル
Net realize value-Normal profit:12ドル

2.3つの中から真ん中の金額のものを選択

真ん中はReplacement costの14ドルということがわかります。この時点で、Marketの金額はReplacement costの14ドルとなります。これと、最初の上方のOriginal Costの15ドルと比べることになります。

3.選択したMarketとOriginal Costを比較

MarketであるReplacement CostとOriginal Costを比較します。

Replacement Cost:14ドル
Original Cost:15ドル

Original CostよりReplacement costの方が金額が低いので、LCMによるInventoryの金額は14ドルということになります。試験では上記のような情報を問題文の中でずらずらと与えてくれるので、情報を整理してから手順通りに行えば問題なく解くことが出来ます。

次は、Inventoryの評価方法のもう一つの方法である、Retail methodについて見ていきたいと思います。

Retail method(売価還元法)とは

Retail methodとは、別名Inventory estimation methodとも呼ばれ、「estimation」が示す通り期末のEnding Inventory、それに続くCOGS(売上原価)を推定する方法となっています。

Retail methodは、InventoryをCost(原価)ではなくRetail value(売価)で評価しておき、その金額からCost/Retail valueの計算式で求められる「原価率」をかけることによって最終的なEnding inventoryの原価とCOGSを簡易的に求める方法になります。大量の種類の商品を抱え、売値が常に記録されているようなスーパーやデパートなどの小売店で採用されることがあるようです。

つまり、Retail methodでEnding inventoryの金額計算に重要となる情報を取り出してみると以下の2点となります。

  1. Cost/Retail valueで求められるCost/Retail ratio(原価率)
  2. Retail value(売価)で測定したEnding inventoryの金額

これらによって、期末のInventoryのCostを導き出すことができます。

Cost/Retail ratioの求め方

原価率は記載の通り、CostからRetail valueを割ることによって求めることが出来ます。ところが、実際の試験ではCostの箇所の情報が不十分なことが多く、以下で説明する計算などが必要になってきます。さらに、Cost/Retail ratioを求める際に、Retail valueの評価方法(つまり計算式の種類)が4つも存在しているのです。では、さっそく説明してきます。

まず、大きく分けて2つの方法「Cost method(原価法)」と「LCM(低価法)」に分けられます。ここでの違いは以下となります。

  • Cost method:値下げ額を含める
  • LCM:値下げ額を含めない

つまり、Cost methodはRetail valueの値下げ額を計算に含めますが、LCMでは値下げ額を計算に含めないことになっています。さらに、この2つの計算方法はさらに2つの条件で分けることになっています。それが「Average method(平均法)」と「FIFO(先入先出法)」の2つです。それぞれの違いを見ていきます。

  • Average method:Beginning Inventoryを含める
  • FIFO:Beginning Inventoryを含めない

この2つの違いはBeginning Inventoryを含めるかどうかなのですが、Average methodは全体の平均を考慮する必要があるのでBeginning Inventoryも計算に含めることになります。FIFOは以前に説明したとおり、最初に仕入れた商品から売れていくという仮定の方法なので、期末には期首在庫であるBeginning Inventoryは存在しないということになります。そのため、計算にBeginning Inventoryは考慮しないことになっています。

Cost/Retail methodの種類まとめ

以上、色々なことを書いてきましたが、それぞれについて計算式をまとめていきます。「Cost method」「LCM」「Average method」「FIFO」を全て組み合わせて、以下のような種類が用意されています。

・Average Cost(平均法による原価法)
こちらはCostなので値下げ額を含めて、さらにAverageなのでBeginning Inventoryも考慮して計算する方法となっています。

・FIFO Cost(先入先出法による原価法)
こちらはCostなので値下げ額を含めることになりますが、FIFOなのでBeginning Inventoryは計算に考慮しない方法となっています。

・Average LCM(平均法による低価法)
こちらはLCMなので値下げ額を計算に含めず、AverageなのでBeginning Inventoryは考慮して計算する方法となっています。なぜかこちらの方法には「Conventional Retail Method」という別名が用意されています。つまり、試験によく出ます。

・FIFO LCM(先入先出法による低価法)
こちらはLCMなので値下げ額を計算に含めず、さらにFIFOなのでBeginning Inventoryも考慮しないという方法になります。

さて、様々な計算の種類を見てきたわけですが、これではちょっとわかりにくいので、実際の数字を使ってRetail methodを見ていきたいと思います。

Retail methodの計算

USCPAの試験では以下のような情報を与えられます。全ての計算方法の中身を満たす情報が入っていますが、試験で求められている計算種類に必要な箇所だけ使用して回答しましょう。

・Costの情報
Beginning Inventory:36,000ドル
Purchase:180,000ドル

・Retailの情報
Beginning Inventory:90,000ドル
Purchase:330,000ドル
Markup:30,000ドル
Markdown:60,000ドル
Sales:270,000ドル

このように、USCPAの試験ではCostの情報が不十分な状態で出題されることが多くなっています。そして、問題文の中に「この会社はAverage LCM(他の方法の場合もあり)を使用してInventoryを評価している」という記載がなされています。ここからRetail methodを使用して、Ending inventoryとCOGSを計算していきます。その前に、もう一度Retail methodに必要な情報を復習していきます。以下の2つになります。

  1. Cost/Retail valueで求められるCost/Retail ratio(原価率)
  2. Retail value(売価)で測定したEnding inventoryの金額

まずは全ての方法に共通する2の方から計算してきます。

Retail valueでのEnding inventoryの金額計算

まずは情報が充実しているRetailの情報を使用して、こちらを計算してきます。この作業は4つの計算種類のどの方法を使用しても必要となる作業で、こちらのEnding inventoryを計算した金額にCost/Retail ratio(原価率)をかけてCostでのEnding inventoryの金額を推定するのです。では、計算式をみていきます。

Beginning Inventory+(Purchase+Markup-Markdown)-Sales

この計算式に当てはめるとRetail valueでのEnding inventoryが計算できます。注意点としては、Ending inventoryを求める際は値下げ額やBeginning inventoryは必ず考慮するということです。繰り返しになりますがこちらはCost/Retail ratioを求めているわけではありませんので、この区別が重要です。実際に計算を見てみると以下のようになります。

90,000+(330,000+30,000ー60,000)ー270,000=120,000

Retail valueでのEnding inventoryは120,000ドルということが判明しました。この金額に4種類存在するうちの試験で問われているCost/Retail ratioをかけることによって、CostでのEnding inventoryを算出するのです。

Cost/Retail ratioの計算

4種類もあってややこしいのはこちらになります。4種類の方法全ての原価率を見ていきます。

・Average Cost
こちらの方法は、Costなので値下げ額を含め、さらにAverageなのでBeginning Inventoryも考慮する方法となっています。それを踏まえると

(36,000+180,000) / (90,000+330,000+30,000-60,000) ≒ 55%

となり、Cost/Retail ratioは約55%ということがわかります。この55%を先ほど求めた120,000ドルにかけて

120,000×55%=66,000ドル

となり、Average CostでのCostのEnding inventoryの金額は66,000ドルとなることがわかります。

・FIFO Cost
こちらはCostなので値下げ額を含めますが、FIFOなのでBeginning Inventoryを考慮しない計算となっていました。それを踏まえると

180,000 / (330,000+30,000-60,000) = 60%

となり、FIFO CostでのCost/Retail ratioは60%ということがわかります。Beginning Inventoryが計算式から消えていることがわかると思います。そのことにより原価率が変化するのです。この60%を先ほど求めた120,000ドルにかけて

120,000×60% = 72,000ドル

となり、FIFO CostでのCostのEnding inventoryは72,000ドルということがわかりました。

・Average LCM(Conventional Retail Method)
こちらはLCMなので値下げ額を含めず、AverageなのでBeginning Inventoryを考慮する方法となっています。それを踏まえると

(36,000+180,000) / (90,000+330,000+30,000)= 48%

となり、Average LCMでのCost/Retail ratioは48%ということがわかります。Markdownが消えていることがわかります。この48%をさきほど求めた120,000ドルにかけて

120,000×48%=57,600ドル

となり、Average LCMでのCostのEnding inventoryの金額は57,600ドルということがわかりました。

・FIFO LCM
こちらはLCMなので値下げ額を含めず、FIFOなのでBeginning Inventoryも含めないという方法でした。それを踏まえると

180,000 / (330,000+30,000)= 50%

となります。値下げ額もBeginning Inventoryも含めないのであっさりした計算式になります。FIFO LCMでのCost/Retail ratioは50%ということがわかります。この50%にさきほど求めた120,000ドルをかけて

120,000×50%=60,000ドル

となり、FIFO LCMでのCostのEnding inventoryは60,000ドルということがわかりました。

Retail methodまとめ

これらのことから、Retail methodはCost/Retail ratio(原価率)の計算種類を全て覚えていないと正解を導けないことがわかります。重要なポイントとしてはRetail valueでのEnding inventoryを計算するときは全てを考慮して計算する。Cost/Retail ratioを計算するときは会社が採用している方法で計算するという違いがあるということです。こちらのRetail methodも最初は複雑に感じるかもしれませんが、何度も問題を解いているとパターンが読めてくるので、何度も問題を解いて全部のパターンを覚えてしまいましょう。

以上で、棚卸資産(評価方法)について終わりたいと思います。