監査法人のちょっと怖い人材事情

このサイトでは管理人である私が監査法人に所属しているということもあり、監査法人推しの記事が多くを占めております。

もちろんこれは私がこれまでの自分の人生を肯定したいというバイアスがかかっている可能性もありますが、やはりUSCPAを取得してから監査法人に転職するというのが現代日本における超コスパ良いキャリアパスだと思います。

ただ、実はこのサイトは「情報が少ないものを実体験を通してそのまま公表する」という崇高な精神のもとで更新されているので、よくわからないとされている監査法人も、出来る限りありのままの姿を紹介したいと思い記事にしています。私が転職するときには全然情報が無くて本当に困りましたからね・・・。

ということでいつも通り前置きが長くなってしまいましたが、今回の本題である「監査法人における人材システムの怖いところ」を書いていきたいと思います。

監査法人の人材事情について

監査法人のアドバイザリー部門では、基本的にプロジェクトベースで仕事が進みます。「プロジェクトって何ですか?」という人は以下の記事をご確認ください。

上記の記事と被りますが、プロジェクトが開始するときに、大体パートナーとそのジョブマネージャー(プロジェクトを中心となって進める人)が以下の点を考慮に入れながら「このプロジェクトには誰をアサインするか」という話をします。

  • そのプロジェクトの予算
  • メンバーの経歴
  • メンバーのスキル
  • メンバーのこれまでの評価
  • そのパートナーNGのメンバーじゃないか

ある程度メンバーの目途が立ったところで、そのメンバーに直接「〇月から〇〇というプロジェクトが始まるのですが、興味ありますか。というか一緒にやってくださいお願いします。」と依頼して、OKが出れば無事に人事担当に連絡してそのメンバーを関与する割合でブロックするわけです。

「Aさん、7月1日~12月31日まで、50%」みたいな感じですね。これを「このくらい集まればOKだろう」というくらい集めて、プロジェクトが始動します。もちろん直接声をかけるのではなく、人事のアサイン担当に「こういうスキル持っている人いないですか」と連絡を取って見つけてもらうということも可能(もしかしたら他の監査法人ではこれが主流かも)ですが、私の監査法人ではそうなっていません。理由については今回のちょっと怖いシステムと関連あるので、後程ご説明します。

ちょっと怖いところ

さて、そのままプロジェクトが問題なく進めば良いのですが、やはり人には向き不向きというものがあります。場合によっては集めたメンバーの中に「時間だけは延々とかかるけど全然アウトプットが伴わない」「クライアントとのコミュニケーションがうまくいかない」「そもそも連絡がつきにくい」といった問題を抱えるメンバーがプロジェクトの中に混じることがあります。

私が遭遇したヤバいメンバー紹介はこちら↑

プロジェクトは、クライアントから貰えるお金(予算)の範囲内でいかにクライアントが満足する成果を上げられるかが重要で、アサインしたのにあまり成果を上げられない人、端的に表現してしまうと「使えない人」は以下のような道をたどることになります。

  • プロジェクトが終わり次第、次のプロジェクトには呼ばれない
  • プロジェクトの途中で外される(リリースと言います)

戦力の程度にもよりますが、基本的にはクライアントに途中で変えるとは言いにくいので、最後までプロジェクトを手伝ってもらった後に、次からは呼ばないようにしよう、と上層部での話し合いで決まります。ひどい場合(クライアントからクレームが続く等)はプロジェクトの途中でも外されてしまいます。これをうちではリリースされる、と言っています。

そのため、監査法人のプロジェクトでは、戦力にならないという評価になったメンバーにはあまり仕事が回ってこなくなるのです。そして、どのプロジェクトにも属していない状態のことを「アベイラブル」と言います。日本語に直訳すると「利用可能」という割とエグイ表現ですね。もちろん、簡単なプロジェクトであれば「これならAさんにもお願いできるかも」ということで、全く仕事がなくなる(=完全なアベイラブル)ということはあまりないのですが、一度ネガティブな評価がついてしまうとそれが付きまとうことになりがちです。

ここで、少し前に記載した、人材を集めるときに人事担当にメンバーの依頼をする、というのがあまり行われない理由に繋がってくるのですが、人事にメンバーの依頼をした場合は、人事はまずこの「アベイラブル」リストの中から人を選ぶという仕組みになっているからです。人事としては稼働していないメンバーを少しでも減らしたいということで理解できるのですが、プロジェクトを推進する側の人からすると、問題がない普通のメンバーでチームを組みたいので、自分が知っているメンバーに直接声をかけることが多くなっているのです。

要するに、プロジェクトベースでの仕事は、仕事が普通に出来る人には仕事が集まり、ヤバいと思われてしまうとどんどん仕事が遠ざかるというちょっと怖い仕組みになっているのです。さらに、仕事が無くても平気という人でも、評価の項目に「今年の自分の稼働率」というものがあるので、アベイラブルが続くと必然的にボーナス激減、場合によっては降格、みたいなこともあり得ます。ただ私の周囲ではまだ降格をしたという人は聞いたことがないので、レアケースだと思います。

最後に

実はこの人材システムで、自分の隠れた一面を発見してしまいました。これまでの人生を振り返ってみると、正直私は自分のことを優しい人間だと思っていました。世間一般的な「優しい人」が取るような行動を自然と取ってきましたし、周囲の人から「優しい」という評価を貰うことも多かったです。

そのため、自分の長所と言えば「継続してコツコツ何かに取り組めること」と「優しいこと」くらいしかないだろうと思っていたのですが、監査法人でマネージャーになってから実はその長所は違ったのではないかと思うようになりました。

というのも割と大きめのプロジェクトを統括する立場になったのですが、いわゆるヤバいメンバーが入ってきた場合、特に心を痛めること無く、あっさりとリリース判断している自分がいたのです。

「プロジェクトの採算性が悪くなるし、他の頑張ってるメンバーにとっても悪影響なのでリリースで良いと思います」と普通に発言した自分を後から振り返り、「あれ?私って優しい人間じゃなかったっけ?」と困惑したのを思い出します。

もしバリバリの外資系企業とかに在籍していたら、バンバン平気でクビにしていたのでしょうか。リリースであれば次のチャンスがあるから平気なのでしょうか。若干自分を見失いそうになりましたが、思ったよりドライということでとりあえず納得しています。私の長所から優しさは消え去ってしまいました。

ということで、監査法人の少し怖い人材事情でした。