監査法人ローテーションは大混乱確定と思う
監査法人のローテーションルールはご存じでしょうか。ローテーションルールとは、同一の監査法人による企業に対しての監査期間を定めて、その期間が終われば別の監査法人に変更する制度となります。
例えばEUでは、監査法人が企業に対して監査を行える期間は最長で10年としており、その後またその企業に監査を実施するには4年のインターバルを置く必要があると法律で定められています(実際はEU各国でもう少し柔軟に国内法制化されているようですが割愛します)。
日本でも少し似たような制度はあり、それはパートナーローテーション制度と呼ばれています。それは同じパートナーが企業を担当するのは最長で7年、その後2年のインターバルを設けた後に再度担当になれるというものですが、監査法人そのものを変更するEUのルールに比べると効果は薄いものとなっています。
監査法人ローテーションルールのメリット
監査法人のローテーションルールを導入することにより、一般的には以下のようなメリットがあると言われています。
監査を受ける企業との癒着防止
同じ監査法人が長期に渡って監査を行うと、企業と監査法人の関係性がなぁなぁになってしまう可能性があります。監査法人にお金を払うのは企業ですので、長年一緒に過ごしていると監査法人側から適切な指摘がされにくくなります。ローテーションで監査法人を強制的に変更することで、馴れ合いを防ぐわけです。
監査の質の向上:
監査法人は似たり寄ったりとはいえ、少しずつ異なります。新しい視点での監査が行われたり、前任者が持っていたバイアスを排除した監査をすることで、これまで見落とされていた問題が明るみになる可能性があります。また、監査法人側にも「前任者には負けない」という競争意識が出て監査の質が向上します。
不正防止
監査法人をローテーションをすることにより、監査法人の視点が定期的に変化することで、企業側が不正行為を隠しづらくなり、不正防止につながります。企業が不正行為を隠しやすくなくなり、不正防止に繋がります。前の監査人はOKと言っていた、と言っても新任の監査人は「我々としてはそれにOK出せません」ということがあるので、企業側のガバナンス意識も向上することになります。
現実
上記のようにメリットたくさんな監査法人ローテーションルールですが、私個人としては非常に有益な制度だとは認めつつも、日本にこれを導入するのは相当難しい(というか無理)なんじゃないかなと思っています。その理由は、どことは言いませんが、非常にゆるゆるな監査法人が存在しているからです。その理由について説明します。
これまで監査法人でアドバイザリー業務をしてきて痛感したのですが、監査を実施する監査法人の厳しさがクライアントのガバナンス意識に大きな影響を与えています。監査法人のアドバイザリー業務は「監査人がOKというレベルまで会計分野や内部統制分野の制度を作り込むのを手伝ってほしい」であったり「経理業務や内部監査業務を支援してほしい」というものが非常に多く、私もこれまでそのようなプロジェクトに何度も関わってきました。
そのような業務をしていると、既存業務の改善支援でも、業務運営支援でも必ず「ん?これってちょっと危ないんじゃないの?」という場面と遭遇します。そしてその旨をクライアントに伝え、改善するにはどうすれば良いかということを一緒に組み立てていくわけです。
ところが、改善点としてお伝えしてもクライアントによっては「監査人はそこまで見てこないので、別にそのままで良いです。」という反応になることもあります。もちろんそこは最終的に責任を取るのはクライアント側なので自由にしていただいても良いのですが、さすがに長く経験していると「いや、、、そこは絶対改善した方がよいんだけどな」というところまで放置するクライアントがいます。
そういうクライアントの監査人を見ると、決まって冒頭に記載したゆるゆるな監査法人が監査を担当しているんですよね。どうやらその監査法人の監査が緩いのは業界では有名らしく、「〇〇社は監査法人が変わると適正意見が出ないのではないか」と噂されるような企業も見てきました。
そのため、今の日本で監査法人ローテーションルールができてしまうと、その緩い監査法人によって監査されている企業はそれ以外の監査法人の厳しい監査に耐えれなくなる可能性があるのです。個人的にはローテーションにより、緩い監査法人だからこそ許されてきた企業が大量に限定付適正意見や意見不表明を受けて市場が大混乱する、みたいな未来も見てみたいとは思いますが、さすがにそうはならないようにこの制度が日本に導入されることはないじゃないかな、と思っています。
ローテーションルールが出来れば一時は混乱するかもしれませんが、ゆるい監査法人とのやり取りに慣れている企業側も、他との競争にあまり慣れていない監査法人側も、ぴりっとして日本の市場がより良いものになると思うのですが、導入されるとしても30年後くらいですかねぇ。
そういう状況だからこそローテーションが必要!みたいなアツい意見で推進するような環境でもなさそうですし、監査法人もぬるま湯で生きていきたいと思っているでしょうから、改善を促すのは難しそうです。