リーマンショック振り返り5

リーマンショックについて、これまではサブプライム危機からリーマンブラザーズの破綻までを見てきました。今回は、この金融危機を受けて世界で起きている金融規制の枠組みの構築について書いていきたいと思います。

世界的不況について

今回のリーマンショックによって、世界の経済は一気に停滞することになりました。金融機関の業界内のみ不況になるということはなく、実態の経済にも不況は波及し、大量の失業者が町にあふれることになりました。それにもかからわず、不況を引き起こした金融機関の人々は世間と比較して高額な報酬を貰い、さらに失業した人たちが納めていた税金で救済されることになりました。このあまりにも不公平な状態に、世界中から「金融機関にもっと規制をかけろ」という声があがりました。この状況を受けて、世界の首脳陣があつまる「サミット」の場において、この問題に対処すべき話し合いが行われることになりました。

「G20ピッツバーグ・サミット」

G20とは、世界の経済をけん引している国々たちのことで、「自分たちはえらい国だ」と勘違いしている国々の集まりです。これらの国が集まって今後の方向性を定めたりする場を「サミット」といいます。昔はもう少し数が少なくG7(アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本)だったのですが、G7にEU、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、南アフリカ、ロシア、サウジアラビア、トルコ、インド、インドネシア、オーストラリア、中国、韓国を加えてG20となっています。

それらG20の国々がアメリカのピッツバーグに集まり、今後について話し合いを行いました。その中に、金融危機にどのように対処していくのかという項目も含まれていました。そして、金融機関や金融市場が今後どうあるべきかについての声明を公表しました。これはG20のピッツバーグサミットの首脳声明といわれています。こちらは外務省のHPなどで日本語訳を見ることができ、現在進行形で行われている金融規制の構築の起源を知ることができます。その内容を説明するまえに、金融危機は何が問題となって発生したのかを整理してみるとわかりやすいと思います。

金融危機があぶりだした問題点

1.金融機関自体の問題

問題点の1つ目として、金融機関自体があげられました。大前提として、金融機関が健全な状態であれば、これらの問題が起きても記金融機関は潰れず、大問題まで発展しなかった可能性もあります。本来行っていたような預金を集めて貸し出しを行うビジネスのみに注力していれば、このような問題は起きなかったのかもしれません。また、仮にサブプライムのようなビジネスを行うとしても資本をかなり厚くしていれば、自身の責任の範囲内で問題に対処できたかもしれません。要するに「Too big to fail」と呼ばれるように影響力が大きい金融機関であるにも関わらず、金融機関自身を健全に保っていなかったこと、つまり金融機関であるにも関わらずつぶれそうになったこと自体が問題の1つとして認識されました。

2.金融市場に関する問題

問題点の2つ目として、これまで規制がかけられてこなかった「デリバティブ」という金融商品の市場があげられました。これまでデリバティブは、株式のように証券取引所のような取引所を介して取引を行うのではなく、金融機関同士が相対で取引を行う「店頭取引」が主流となっていました。複雑な契約条件などがあるため、取引所を介するより取引相手と直接契約内容を決めて取引を行う方が自然だったためです。つまり、当局が取引内容を把握したい場合、取引所を介して取引を行うのであれば、取引所を監視すれば全ての取引を把握できるのに比べ、「店頭取引」、つまり相対で取引を行う場合は、全ての金融機関がどこの金融機関とどのような取引を行っているかを把握する必要があり、当局が取引実態を把握することは実質的にほぼ不可能になります。

これは、金融機関が、取引相手がどの取引相手が危ない取引をどの程度行っているかを把握することを困難にし、結果として1つの金融機関が破たんするとその影響が他のどの金融機関に波及するかを把握することを困難にしました。このように、デリバティブの市場がほぼ規制をかけられていなく不透明な状態であったこと、これが問題点の2つ目としてあげられました。

3.その他の問題

上記1と2以外にも、監督当局の能力の問題や、金融機関で働く人の報酬が高すぎるといった問題、そして金融機関が開示する情報が少なすぎるといった問題があげられました。

これらの問題が複雑に絡み合って、100年に1度といわれる不況を引き起こす金融危機が発生することになりました。これらの問題に対処するため、G20においてはそれぞれの問題に対して各国で問題を二度と発生させないように諸規制を整備するように呼びかけました。次からは、上記1と2の問題を中心に、どのような規制が整備されているかを記載していきます。

規制の整備

1.金融機関自体の問題

金融機関の健全性を確保するために、「プルデンシャル規制」と呼ばれる規制の構築が始まりました。一般的に「バーゼルIII」などと呼ばれています。今までもバーゼルIIと呼ばれるものがあったのですが、今回の金融危機を受けて、さらに金融機関の業務を規制でガチガチに固める方向になりました。主な規制としては以下のようなものがあります。

  1. 証券化商品への資本賦課
    証券化商品を取り扱う場合に、高い自己資本を要求する規制になります。つまり、リスクが高い商品を取り扱う場合、それに対するより高い資本を備えてくださいね、ということになります。
  2. トレーディング勘定の資本賦課
    トレーディング勘定の取引を行う場合に、高い自己資本を要求するものになります。トレーディング勘定とは銀行勘定に対するものであり、短期的な売買を行うものなどがあげられます。トレーディング勘定は売買目的有価証券、銀行勘定は貸出金といえばイメージがわくかもしれません。つまり、リスクが高い業務を行う場合、それに対するより高い自己資本を要求するものになります。

難しく聞こえるかもしれませんが、要するに「本来の銀行業務に集中してくださいね」という規制になります。リスクが高い業務を行うのであれば、その分自身を安全な状態にしてからその業務を行ってください。という規制になります。つまり、金融機関の安全性を高めることにより、金融機関を破たんさせないようにする規制が「プルデンシャル規制」となっています。

2.金融市場に関する問題点

これまで規制がかけられてこなかったデリバティブ市場に対して、抜本的に規制を導入してデリバティブ市場を透明にしようということになりました。デリバティブには「標準化可能なデリバティブ」と「標準化できない複雑なデリバティブ」の2種類に分けることができます。そのうちの標準化できるデリバティブに関しては以下の規制をかけることになりました。

  1. 電子取引基盤
    これまでのように電話などでさくさく取引を行うのではなく、共通のプラットフォーム上でデリバティブの取引を行うことを要求する規制になります。
  2. 清算集中
    中央清算機関と呼ばれる機関でデリバティブ取引を集中して行うことを要求する規制になります。これで、金融機関は取引相手が破たんしても中央清算機関を相手にデリバティブの清算を行うことが出来ます。
  3. 取引報告
    デリバティブ取引に関する情報を、取引情報蓄積機関と呼ばれる機関に報告することを義務付ける規制になります。これによって、規制当局が取引実態を容易に把握することが可能となります。
  4. 記録保存
    デリバティブ取引に関する記録を一定期間行うことを義務付ける規制になります。

そして、標準化されない店頭デリバティブに関しては、その取引の勝ち負けやポートフォリオに応じて、取引相手と担保のやりとりを行う「証拠金規制」と呼ばれる規制が課せられることになりました。

このように、これまで規制が無かったデリバティブ市場に、一気に規制をかける波が発生しました。これらの規制の構築は現在進行形で行われており、各金融機関はそれらの規制に対する体制整備を行っている状態になります。

かなり長くなってしまいましたが、これでリーマンショックと、それに対応する金融規制の流れについてを終わりたいと思います。

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