監査法人における人材の重要性について

少し前のことになるのですが、僕が所属する監査法人の人たちと飲みにいっていました。そこでの話により少し考えたことがあったので、今回ここに書き残しておこうと思います。

監査法人における人材の確保の重要性について

タイトルそのままなのですが、監査法人においては他の事業体に比べて、人材確保の重要性が非常に大切なのでは無いかということです。そんなのどこの会社も同じだと思うのですが、個人的に、監査法人においては他のどの事業体よりも人材の確保が大切だと思うのです。今回は、そのことについて書いていきたいと思います。

人材の確保とは

まず、「人材の確保」について最初に定義しておきます。人材の確保というと一般的には、①採用活動を行い、新規に入所してもらう。②既存のメンバーに、出来る限りとどまってもらうという2点があげられますが、今回の記事で言う「人材の確保」とは、一旦監査法人に入所した人々(特に、優秀な人)を辞めさせないようにすることを言います。つまり②の方ですね。決して、①の新規に採用するということではない点にご注意ください。次に、優秀な人材にまつわることについて書いていきます。

優秀な人材にまつわること

簡単に「優秀な人材」といっても、人それぞれで思い描くことは異なると思いますので、ここはかなりざっくりと「この人すごい(プラスの意味で)」と様々な方面から言われる人を指します。「あの人って仕事ができるよね」といった人が皆さんの職場にも少数ですがいると思います。その人を思い描いて頂ければ、僕がここでいう「優秀な人材」という意味がわかると思います。(僕もそういった人になれるように日々奮闘中ですが、難しいですね)

その優秀な人材は、上司や同期、そして部下や下の世代にわたって名前が知れ渡っており、その優秀な人を慕って、もしくは切磋琢磨する仲間として同期や下の世代が仲良くなっていることがあります。もちろんそれらの集まる人も優秀な人が多く、優秀な人材の周りには優秀な人材が集まるということになるのです。人間は同じような性質を持つ人たちが集まりやすいですから。この「優秀な人材の周囲には優秀な人材が集まる」という点に注目すると、いかにこのような人材を引きとどめ続けるのが重要となるかがわかると思います。

優秀な人材が流出した場合

仮に優秀な人材が流出(つまり、辞める)したときのことを考えてみます。まず、会社として1人の人材がいなくなることによる物理的なダメージがあります。今までその人に投資していた分が全て他社に移動してしまいます。他社に優秀な人材を送り込むためにせっせと投資をしてきたと考えると、いかに1人の人材の流出が手痛いダメージとなるかがわかると思います。そして、間接的な影響として、その周囲にいる人たちに確実にネガティブな影響を与えます。「なぜあんなに優秀な人が?」「適切な評価システムが無いのでは」「上層部が順番待ちの状況なのか」「他社はもっと良い条件を提示してくれるのでは」「あの人と共に働けないならこの会社に価値はない」といった、会社にとってよくないイメージを優秀な人材の周囲の人々が自然と考えるようになります。その人を慕っていた人のモチベーションも著しくさげることになります。目標としていた人や、切磋琢磨していた仲間が消えるということは、環境に依存しやすい人間にとってよくないことであるのは自明です。

どうしてこのようなことを書くに至ったかというと、冒頭に記載した飲み会の内容というものが、まさに「超」がつくほど優秀とされていた先輩が辞めるという話をしてくれた飲み会だったからです。僕も正直に言って、かなりショックでした。まだ働き出して数年しかたっていませんが、この先輩はどんどん出世して最終的にパートナーになるであろうと個人的には思っていた人だからです。次にどうするかを聞いてみると、待遇がかなり悪くなるにもかかわらず、事業法人に転職するとのことでした。この話を聞いて、監査法人とはその性質上、人材の確保にもっと本気を出して取り組まなければだめなのではないかと思い始めました。

監査法人の性質

僕が見たところ、監査法人はその性質上、辞める人材が多い業界となっています。具体的には

会計士という資格の性質

日本の公認会計士は、合格後は手続きを行うと税理士にも登録可能であり、独占業務を行うことが可能となるため、簡単に独立できる資格となっています。それがゆえに、実家が税理士法人や会計事務所の子供や孫といった人が監査法人に入所している場合もかなり多く、最終的に監査法人で経験を積み、監査法人のお金で資格を取得した後、さっさとやめて実家を継ぐという人もいます。また、財務に強い人間というものは事業会社でもニーズが強く、簡単に転職可能なスキルとなっています。

監査という業務の性質

僕が聞いた範囲では、監査というのは基本的に定型作業が多く、数年やった程度では自分が何をやっているのかをわからないようなものだというものです。誤解をおそれずにいうと「つまらない」仕事だということです。事業会社からもうっとうしがられ、毎年ほぼ変わらないことを続けるということは、難関資格である公認会計士を突破した人にとっては物足りない業務なのかもしれません。もちろん監査が楽しいという人もいると思いますが、僕が効く範囲では少数でした。

これらのことから、監査法人を辞めるということに対する閾値が非常に低く、会計士はやめようと思えばあっさりとやめられる環境になっています。このような状況にも関わらず、むしろこのような状況だからこそなのかもしれませんが、監査法人は新規の人材の採用には力を入れていますが、人材の流出に関してはあまり対策を講じていない気がします。上記のように、優秀な人が辞めた場合、その周囲への悪影響は非常に高いものであるにも関わらずです。

大量採用大量退社のむなしさ

新規採用に力を入れるだけでなく、既存のメンバーが抜けることに対して抜本的な改革を加えないと、いつまでたっても定期採用と呼ばれる1年に1回の大量採用を行い、いままでどおり大量退社を繰り返すだけになります。しかもその大量採用は景気によって採用人数をコロコロ変化させ、景気が良い時にあとのことも考えずにどんどん採用を行い、現場に大量の新人という形で配置するだけです。リーマンショック前など、「プリントした紙を挟んでいるファイルを取ってきて机に置く」「コピーを取る」だけを新人に任せていたような時代もあったそうです。どこまであとさき考えないバカな採用なんだと思うかもしれませんが、これが現実です。しかも採用人数のベンチマークは競合他社であり、とりあえず他法人にとられる前に取るというクソのような方針です。

こんなクソみたいなことを繰り返すのであれば、一旦入所した人を丁寧に育て上げれば良いのです。辞めやすい環境にあるからこそ、「それでもこの法人が良いから辞めない」という環境を整えなければ、上記の流れが続くだけです。優秀な人材を流出させないようにすることで、その周囲の優秀な人材も確保することができます。優秀な人材がいることにより、「僕/私もこの法人で働きたい」と外部の人にも思ってもらえるようになるのです。採用の結果は優秀な人材の確保が出来れば後からついてくるものになります。本当にその法人で働きたいと思う人だけを採用するのが最も効率的だと言えます。

このことは、その時代に人気がある企業を見ればわかると思います。なんらかのインセンティブがあるためこの会社(または業界)で働きたいという人が多ければ、その中から優秀な人だけを選考して採用することが出来ます。外資系コンサルや投資銀行、総合商社などは人数が少なく、優秀な人材の集まりというイメージを応募側に持たせることに成功していると思います。目指すのはこちら側の採用であるはずです。

いち早く監査法人が大量採用、大量退社のまぬけなスパイラルから逃れることを祈っております。

 

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