リーマンショック振り返り3
前回まではリーマンショックに至る過程の内、サブプライム問題、パリバショックからの世界への波及、金融機関の破たんという観点を見ていきました。今回は、ベア・スターンズの危機について見ていきます。
サブプライム関連商品の損失拡大
前々回に記載したパリバ・ショックにより、全世界にいる投資家が「サブプライムにまつわる商品は危ない」という認識を持つようになりました。この時点で、サブプライム関連商品を保有している金融機関が危ないのではという雰囲気になりました。
ここから、どこの金融機関が実際に危ないのか、という具体的な不安が引き起ります。ただ、金融機関と言っても前回説明したような「銀行」は、我々消費者からの「預金」という形で現金を集めることが出来るので、比較的に安心できます。そのため、最初に最も危ないとみなされたのは、自身に資金調達能力を持たない、つまり他の法人からの借り入れに依存している「投資銀行」という業態でした。
投資銀行とは
では、その「投資銀行」とは一体どういった業種なのか。日本では直接的に投資銀行と呼ばれる会社が少なく、「証券会社」のようなものだと思われている人もいるかもしれませんが、投資銀行は具体的には以下のような仕事を行っています。
- M&A
こちらは他の企業を買収しようと考える企業のアドバイザーを行い、手数料をもらうビジネスになります。一般的に企業買収には財務・法務などの専門知識に加え、資金調達や相手先企業のバリュエーションなども必要となります。これらの一連の活動に対してアドバイスを行い、その見返りとして報酬を得るものになります。
- 引受
こちらは企業が株式や社債などの債券を発行する際に、投資銀行が一旦すべてを引き受ける役割を担うものになります。また、株式や社債などの発行に関してアドバイスを行い、手数料をもらうものもあります。
- トレーディング
投資銀行が持っている現金などを使って投資を行ったり、別の投資家からお金を借りて投資を行ったりして運用益を狙う業務です。
他にも様々な業務を行っているのですが、投資「銀行」と名前はついていますが実際の業務は一般的な人が考える銀行とは程遠く、M&Aや引き受け業務で手数料を稼ぐというのが投資銀行になります。基本的には上記の中でもM&Aや引受を通した手数料収入が主な収入源だったのですが、リーマンショック発生時になるころには最後の「トレーディング」業務がかなりの収益の割合を占めるようになります。
投資銀行による投資
トレーディング業務が拡大する中、更なる儲けを追求する投資銀行は次第にサブプライム関連商品にも投資対象を広げていくようになります。特に、米国の投資銀行業界の中で下位であったベア・スターンズとリーマン・ブラザーズは、上位に追いつき追い越すために、リターンが大きいサブプライム関連商品に投資を行うこととなります。さらにこの投資は、自己資金で行うだけでなく、借り入れた資金を利用してレバレッジをかけて行われることになります。そうすることで、大きな利益を上げるようにしていました。
・レバレッジについて
ここで軽くレバレッジについて触れておきます。例えば、投資銀行Aが1000万を持っていたとして、これを全てサブプライム関連商品に投資して10%のリターンがあったとします。すると
1000万×1.1(10%のこと) = 1100万円
となり、100万円の儲けになります。もしこれが、自己資金である1000万円に加えて、9000万円を借り入れて行った投資だと仮定すれば
(1000万+9000万)×1.1(10%のこと) = 11000万円
となり、何と1000万円の儲けになります。これで最初に借りていた9000万円を返すと、当初自分で持っていた1000万と儲けの1000万円で、自己資金費で100%のリターンを得たことになります。これがレバレッジをかけるということの簡単な説明になります。
これを同じような原理を使用し、投資銀行は借り入れを行い次々とサブプライム関連商品に投資していきました。特に借入に依存していたのが、ベア・スターンズとリーマン・ブラザースになります。この、レバレッジを効かせてサブプライムローン関連商品に大きく投資をしていたベア・スターンズが、「危ないのではないか」という不安の標的となります。
ベア・スターンズ危機
サブプライム関連商品の価格が下落する一方で、市場の中ではベア・スターンズが破たんするのでは、という雰囲気になってきました。一旦金融機関の信用が落ちてしまうと、以下のような流れになります。
ベア・スターンズが破たんするかもしれない
↓
お金を貸しても返ってこないかもしれない
↓
貸すのはやめよう
↓
むしろ前に貸しても貸していた分を回収しよう
こうなることにより、実際にベア・スターンズから急速に現金が失われ、いよいよ破たん寸前のところまで来てしまいました。ところが、こういう巨大な銀行はあまりにもその規模が巨大なため、破たんするとマイナスの影響がでかすぎると言われています。その悪影響を避けるため、政府がつぶれる前に救済するだろうと考えられています。それが
「Too big to fail」ということです。
つまり、大きすぎてもはやつぶせないということです。アメリカでは、ベア・スターンズがつぶれる直前に、大手銀行であるJPモルガンチェース銀行にベア・スターンズを買収させることにしました。当時のアメリカの法律では、政府が直接投資銀行を救済することが出来ないようになっていたのです。そこで
政府
↓お金
JPモルガン
↓買収
ベア・スターンズ
という意味不明なロジックで、ベア・スターンズを救済することになりました。その金額、3兆円。3兆円分の税金を利用し、ベア・スターンズはJPモルガンに買収されることになりました。この1件により、市民の政府に対する態度は悪化することになります。自分たちの税金が意味不明な稼ぎ方をしていた人々を救済することに使われたということなので、まぁ仕方の無いことだとは思います。
ただ、上記のようなトリッキーな方法を使用してまで、政府は市場の安定化をなんとか達成しようとしていました。ところが、その努力もむなしく、次はベア・スターンズより大きなリーマン・ブラザーズに危機が訪れます。次回は、そのことについて書いていきたいと思います。
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