監査部門とアドバイザリー部門の特徴比較
さて、今回は監査法人に興味があるんだけど「監査部門」か「アドバイザリー部門」のどちらで働くほうが良いのか迷っている、というかそもそもどんな感じで違うのか知りたい、という人に向けて記事を書いていきます。もちろん純粋に監査法人業界やコンサル業界に興味がある人にも何かしら有益な情報を書ければよいなと思っております。
今回は、まず監査部門の特徴を書いた後に、アドバイザリー部門の特徴を書くという順番でいきたいと思います。では、さっそく内容に入っていきましょう。
監査部門の特徴
監査部門の特徴として、業務の中心が「監査」であることがあげられます。「いや、当たり前のことですよそれ」と思われるかもしれませんが、この「監査」が中心になるということが、監査部門におけるすべての特徴を含んでいるので、まずはここを理解することが最重要になります。繰り返しになりますが、監査部門に配属されると、自分が担当する業務は基本的に「監査」になります。つまり、監査業務の特徴を考えることにより監査部門の特徴を炙り出すことができるのです。では、監査に携わることでどのようなことになるのでしょうか。
毎年やることが割と決まっている
まずはじめに、監査は毎年やることがある程度決まっています。クライアントの決算期に合わせて監査計画をたて、その計画に沿ってクライアントから資料をもらい、内容を調査して、調査した結果を監査法人の独自システムに記録していきます。不明点があればクライアントに確認し、得た回答も同じくシステムに記録していきます。つまり、監査業務における「調査対象」と「調査方法」は抜本的に変わることがそこまでありません。
もちろん、毎年ある程度の調査対象は変動したり、クライアントが新しいことをすればそれに伴って監査手続きが増えたりすることもありますが、基本的な調査対象が変更することはほとんどないので、ある程度変わらないことを前提にして監査計画がたてられることになります。
ではこの「あまり変わらない」という事象から、監査業務における特徴を説明したいと思います。
育成計画が立てやすい
やることが決まっているということは、それに根差して育成計画が立てやすくなっています。例えば大きなクライアントの場合、新人はまず簡単な勘定科目から担当し、徐々に自分の担当範囲を広げていくことになります。ある程度経験を積んだ後、インチャージという現場の責任者兼新人教育担当を任せられます。そのままインチャージを経て、管理職を目指していくという流れになります。これは、業務内容が大きく変わらないからこそ可能なシステムとなっています。ある程度決まった流れで業務を覚えたい人にとってはピッタリなわけです。
繁忙期と閑散期がハッキリしている
日本の上場企業は大体3月末決算です。つまり、四半期決算は6月、9月、12月、3月となるので、大体その月と翌月が忙しいのが一般的になっています。なお、本決算の忙しさは別格で、3月が終わった後の4~5月が一番忙しい時期になり、土曜日出勤や長時間残業が当たり前の世界のようです。また、ゴールデンウィークは無いと思っておいた方が良いと聞いたこともあります。逆に、8月や11月は閑散期となり、人によっては1ヶ月近い休みを取ることもあるようです。このように、監査業務はやること(と時期)が決まっているため、長期の旅行とかが趣味な人にはピッタリかもしれません。
成果物
監査業務の最終成果物は「監査報告書」であることがあげられます。監査報告書とは、企業が作成した財務諸表が、一般的に公正妥当と認められる会計基準に準拠して適正に表示されているかについて監査人の監査意見を述べる報告書になります。もう少しわかりやすく説明すると、会社が作成している財務諸表について、変なことをやっていないか確認して「大丈夫と思いますよ」と意見する報告書です。大量の会計士が膨大な作業をした結果はこの数枚の報告書に集約されます。そのため、自分の仕事の成果物を「これだ!」と感じることは少ないのかもしれません(憶測です)。
クライアントとの関係性
監査業務は企業の会計処理が何か間違っていないかを確認する仕事になります。その前提があるため、基本的に疑ってかかることが仕事の根底にあります。一度経理部門などで監査人対応を経験した人からすれば、監査法人の人間はあまり好きになれないかもしれませんが、そりゃ疑いを根底に持った人間とうまくコミュニケーションをとる方が難しいと僕は思います。ちなみに僕も経理時代は監査法人の人間は普通に嫌いでした。人から嫌われるのが極端に苦手な人は向いてないかもしれませんね。
以上が監査業務の特徴です。では、続いてアドバイザリー部門の特徴について書いていきます。
アドバイザリー部門の特徴
アドバイザリー部門の特徴として、監査を中心とする監査部門と異なり、「決まった仕事はない」ということがあげられます。もちろん定期的に同じ業務を実施しているプロジェクトもありますが、かなりの割合が新しい仕事だったり、コロコロとサービス内容が変わるものだったりします。このことから、プロジェクトによってやることも、忙しさも、必要となる知識も変わってきます。これらの特性を踏まえて、アドバイザリー業務の特徴について説明していきます。
人材育成
正直に言います。プロジェクトによっては人材を育成するという観点が抜け落ちています。というか、プロジェクトの基本的なことを教えたら「後は自分で勉強なりなんなりして成長してくれ」というのがプロジェクト責任者の本音だと思います。クライアント側もいちいち自分たちの状況を分かっていない新人を入れられても困るわけで、さっさと戦力になる人が求められるのは仕方ないかもしれません。良いように言うと「プロジェクトを通して成長する人材」が向いているのかもしれません。自ら何が必要か考えて取り組むタイプが重宝されるかな、と思います。
繁忙期、閑散期が読めない
監査とは違い、プロジェクトによって忙しい、忙しくない時期を見定めるのは難しいです。プロジェクトの期間を通してずっと忙しいプロジェクトもあれば、毎日定時に帰ることができるプロジェクトもあります。この辺りは本当に「プロジェクトによる」としか言えません。僕はめちゃくちゃ忙しいプロジェクトに数年携わった後に、超絶緩いプロジェクトに入ったことがあるのですが、定時で変えることに逆に不安を覚える身体になってしまいました。長期で休みを取ろうと思うと、あらかじめ休みを入れておき、「この時期は絶対に休みます」と先手必勝を体現するか、プロジェクトが終了して次のプロジェクトに入れられる前に休みを取るかというパターンがあります。僕もアドバイザリー部門に入って、普通に有休を使い切らず(というか全然取らずに)に終わった年が何度かあります。
クライアントとの関わりが多い
アドバイザリー部門の仕事は、クライアントだけでは解決できない箇所に監査法人として乗り込むわけですが、当然クライアント側にもプロジェクトを進めるキーパーソンや担当者がいることになります。そのため、その人たちと我々で協力して問題を解決していく必要があり、クライアントとのやり取りは必然的に多くなります。コロナの環境になってからはリモートでの作業が中心となりましたが、コロナ前は基本的に毎日顔を合わせるような状況でした。僕は正直、人間との交流そのものがあまり得意ではないので、コロナでリモートが中心となってかなり気が楽になりました。クライアントとの交流が多いという点は、監査の仕事とは大きく異なると思います。
成果物
アドバイザリー業務のその他の特徴として、成果物が多種多様であることがあげられます。もちろん契約形態として多いのは「クライアントが作成した成果物の作成支援をした」と名目上はしておいて、実質は全てこちらで作成して納品するのが基本です。まぁ最終的にはクライアントが確認してOKが出れば完了なので、最終レビューをクライアントが行っているという事実は変わりないわけですが。
繰り返しになりますが、成果物は本当にプロジェクトにより千差万別です。僕が携わってきた中から出来る限り一般化した例をあげてみます。まずは仕事の進め方を決定するためにWBS(だれがいつまでに何をやるのかリストのようなもの)を作成し、そのWBSに沿ってやるべきことをクライアントと進めていきます。プロジェクトを進める最中に「こういうことを検討しなければならない」という資料そのものを作成することもありますし、週次や月次で「今ここまで進んでます」というただの進捗報告の資料を作成することも多いです。各関係者に「こんなプロジェクトやってます。こういった資料下さい。こういったことやってください。」と説明と依頼を兼ねた資料を作成することもあります。プロジェクトに必要になる資料そのものを作成することももちろん多いです。
クライアントとの関係性
アドバイザリー部門の業務は、クライアントと共にクライアントの問題を解決する仕事と捉えてもらえれば大丈夫です。この点において、監査の「この会社に問題はないか」とチェックする仕事とは明確に異なります。そのため、「ありがとうございます」「本当に助かりました」というクライアントからの感謝の声が聞ける回数は監査部門とはケタ違いになります。
まとめ
監査業務とアドバイザリー業務の特徴について書いてきました。まとめると、監査業務はある程度やることが決まっているため、人材育成や休暇の点で予測を立てやすい反面、成果物が報告書のみであり、クライアントからあまり感謝されないという特徴があります。「せっかく会計士になったのに、何してるんだろう」という声が出るのは後半の特徴が自分に合っていないからかもしれません。
一方、アドバイザリー部門は業務自体があやふやで、人材育成や休暇といった観点からは安定性はないものの、自分がこれを作成したという成果物が見えやすく、かつプロジェクトが上手くいった場合はクライアントから直接感謝されるという特徴があります。ただ、これをやってくださいと言われたことをやる受動的なタイプにとってはキツい環境になる可能性があります。僕も受動的なタイプだったので、結構慣れるまでキツかったです(今でもキツい)。