監査法人はどのように仕事を増やしているか

さて、僕は「監査法人」という割とレアな業界で働いているのですが、レアな業界なので内部の情報があまり出回っていないわけです。僕も監査法人を目指して転職活動をしたときは、全然情報が無くて困りました。結果としては運良く監査法人へ転職することができ、内部に入ったことであらためて分かることも増えてきたので、じゃあ僕が色々と情報を公開していこうと思い立ちました。

今回は、監査法人はどのように仕事を増やしているのかについて書いていきます。監査法人は「監査」と呼ばれるわけのわからないことをやっているのは知っているけど、実際にそれ以外のところでどのように仕事を増やしているのだろうと思われる方に向けての記事になります。

留意点として、今回は監査法人の中でも監査部門ではないアドバイザリー系の部門に特化した話になります。理由としては単純で、僕が所属する部門が監査部門ではないため、具体的な情報を多く持っていないからです。ただ、もちろん知りうる限りで監査部門の話も盛り込みます。

アドバイザリー部門の仕事の増やし方

まずは、僕が所属するアドバイザリー部門における仕事の増やし方についてみていきます。もちろんここに書くことが全てではなく、このようなパターンもありますと、という話であることはご理解ください。

プロジェクト中に別領域の相談を受ける

まずは、すでに契約に基づいてアドバイザリー業務を提供しているクライアントから、別領域についての相談を受けてから始まるパターンを紹介します。このパターンはすでにプロジェクトを通して「この監査法人の人たちは使える」と思われていると発生する可能性は高まります。また、相談を受ける領域については当然会計分野が多いのですが、それだけにとどまりません。例えば、四半期決算の支援を監査法人が提供していると仮定して、業務中にクライアントのちょっと偉い人から以下のような相談が来ます。

  • 決算の早期化ってどうやったらできますかね?
  • 今度導入される新しい会計基準、どう対応すれば良いですかね
  • 子会社を設立しようと思っているんですが、詳しい人います?
  • システムを変えようと思っているんですが、詳しい人います?

当然クライアントの業務や置かれた状況によって困りごとは千差万別な内容となります。簡単にいうと監査法人側も「そりゃ困りましたね」という感じなのですが、現場のリーダーたちは自分たちがいくら売り上げたかの営業成績がボーナスや査定に直結するので「ウチその分野めっちゃ詳しいですよ(^Д^)」と大きくハッタリをかますことになります。その後、相談の会議という場を設けて、監査法人側が以下のような内容を含んだ資料を用意して軽くプレゼンするわけです。

  • 過去にこういう業務を支援したことがある
  • こういうことにお困りだと認識している
  • 貴社の現状はこうなっていると認識している
  • このような体制整備、各種対応が必要になると認識している

この簡単な会議の場でクライアントから「もう少し詳しく教えてください」となると、上記の項目をもう少し詳細に記載したものと、プロジェクトに参加する予定のメンバーの紹介や、見積金額などを記載した「提案書」を使ってクライアントの偉い人たちにプレゼンテーションをすることになります。

「そこまで興味あるんならプレゼンした時点でOKなのでは」と思われるかもしれませんが、クライアント側もこの提案させる段階で他の監査法人やコンサルなどに提案をさせることも多く、どうしても仕事が欲しい他社や他法人がめちゃくちゃ安い金額で提案したりして、土壇場で普通に競り負けるということも割とあり得ます。経営陣層には「とにかく安ければOK」と考えている人が一定数おり、それらの人が大きい権限を持っていたりすると安い金額で提案したところが受注してしまうのです。

このように、クライアントからの相談をもとに提供できるサービス内容を提案して、クライアントから「お願いします」との返事が来た場合、契約書を締結して、新しいプロジェクトがスタートすることになります。

クライアントの大規模プロジェクトに伴う依頼

こちらは上記の相談から始まる仕事とかなり似ていますが、クライアントが大規模なプロジェクトを実施したことに伴い、仕事が回ってくるパターンです。例えば、すでにクライアントに内部統制のテスティング支援を実施している場合に、そのクライアントが海外子会社を買収し、その子会社がJ-SOXの対象となる規模であるため、子会社側でJ-SOX対応が必要になるケースなどがあげられます。

子会社側の人から見ると「J-SOXって何それ?おいしいの?」という話になり、その状態から体制整備をしようとなるととてつもない負荷がかかることになります。そこで、すでに本社側でサービス提供をしている監査法人に対して、子会社における内部統制の体制構築支援を依頼してくるというわけです。

クライアントからすると「すでにウチで内部統制みてくれてるんだから、内部事情を知っているあなたが海外子会社もついでに見てくれ」ということになります。そのため、基本的にはほぼ依頼を受けた時点で仕事をゲットしているようなものなのですが、基本的にはそのような状況でも「提案書」を作成しクライアントにどのようなサービスがいくらで提供できるかを説明する必要があります。

こういった観点からみると、やはり海外にも法人を多く有するBig4の監査法人が有利になると感じることは多いです。中小規模の監査法人に頼んでおり、海外子会社に対するサービスを依頼しようとしたらその国に同じメンバー法人がいない場合、わざわざ国内と海外で別の監査法人にサポートを依頼する必要が出てきて、一体としてプロジェクトを推進しようとすると膨大な労力が必要になってしまいます。

業務中に監査法人側から提案

これに関しては、僕が成功している場面を見たことがないので何とも言えませんが、監査法人側から新しい業務を提案することもあります。例えば「今やっている経理の業務をデジタル化しませんか」であったり「内部統制、業務プロセス統制だけでなく、全社統制もウチで見れますよ」といった感じです。要するに今やってる業務に関連して、もっと広範囲でうちに任せてほしいとお願いするわけですね。ところが、クライアントからしてみればわざわざ今できていることについて監査法人に追加で頼む必要がないため、特にいらない提案なわけです。

僕が過去に所属していたプロジェクトでは、何度か上司がこの手の提案をクライアントにしていましたが、一度も「お願いします」という結論になったことはありませんでした。僕個人としてもこのパターンの提案をしろと言われるのが一番嫌ですね。正直こっちが「こうした方が良いのに」とわかっていることであっても、クライアントからしてみれば余計なお世話なので、こういう提案をすると溝が発生するだけだと思います。

その他

これ以外にも、外部向けの研修を実施し、その研修を受けたクライアントから依頼を受けるケースや、公官庁関係の案件だと入札書類を準備して入札に挑むなど、様々な方法があります。

監査部門の仕事の増やし方

監査の仕事が増えるパターンについて話しておきます。監査という仕事は、上場している企業に対する業務という性質上、そこまで母数が多いわけではありません。日本においてIPOが盛んだった時代は過去のものとなり、そこまで多くないパイを多数の監査法人で取り合っている状況となります。

このような状況下で新規に監査の仕事が発生するということは、新規上場した会社の監査法人となるか、もしくは既存の会社から監査法人の変更となるかのパターンに分けられます。ここで、後者である「既存の監査法人の変更」に伴い監査の仕事が増えるパターンを見ていきます。

監査報酬高いので変えますパターン

こちらは近年増えているパターンのようです。監査で実施する作業が増えてきたので、監査法人側からクライアントへ「ちょっとやること増えてきたんで、監査報酬増やしてもらってよいですか?」という依頼をすると、クライアントは「は?勝手に作業増やして報酬金額釣り上げてんじゃねぇぞコラ」となるわけです。クライアント(特に従業員)からしてみれば、監査なんてものは日常の作業を邪魔する面倒な存在でしかなく、邪魔ものに対して高い監査報酬を支払っていることそのものが不快であったりします。もちろん株式市場において監査法人によるチェックが働くことは社会の機能としては非常に重要ですが、そこまで理解してくれるクライアントは少数派なわけです。実際、僕も事業法人にいるときは日常業務の忙しい時に監査法人の人から連絡が来ると、イライラがすごかったので気持ちはわかります。

そして、そのような状況にも関わらず、監査報酬を上げてくださいと依頼する場合、「じゃあ安くやってくれる監査法人に頼みます。これまでありがとうございました。」となる可能性があるわけです。このようなことになった場合、次に監査を頼まれる監査法人としては「新規に仕事が増えた」と言えるのです。

ところが、これは新しく仕事を取った監査法人にとってもあまり良い出来事だとは言えません。結局クライアントとしては「監査なんてどうでも良いんで、とにかく安く済ませてくれ」というスタンスの会社の可能性が高いからです。その場合、監査法人側がしっかりとした仕事をしようとすればするほど、クライアントから鬱陶しがられることになります。

監査法人がやらかしたパターン

続いてのパターンは、監査法人が企業の不正を見抜けなかった、あるいは不正に加担していたといったことが発覚した場合に、市場での信頼が崩れ落ち、そのまま他のクライアントからも監査の担当から外されるパターンです。これにより、外された当事者の監査法人以外の監査法人からしてみれば、新規クライアント獲得の大チャンスということになります。

例えば東芝の監査法人が「不適切会計(笑)」を新日本が見抜けなかったということで信用を失い、PwCあらたに変更になったパターンなどがありますね。そのPwCの元提携先である中央青山監査法人についても、大量に虚偽記載を見逃していたということで市場の信用を失い、業務停止命令によってバラバラとなり、当時のBig4の他の監査法人等に大量にクライアントを吸い取られています。

このように、監査部門が新規にクライアントを獲得する際には新規上場が多くない日本においては「他の監査法人から既存の上場会社の監査担当をむしり取る」という意味合いが強く、あまり新規にクライアントを獲得するというイメージはありません。

※日本における新規上場の推移を調べたところ、近年では増加傾向にあるようです。2021年度の新規上場数は14年ぶりに100を超えて125社だったそうです。監査法人としてはうれしい傾向ですね。

まとめ

まとめとして、監査の仕事が増えるときは他の監査法人から奪い取るのがメイン、アドバイザリー部門の仕事が増えるときはクライアントの悩みが発生したときがメインということが出来ます。もちろんこれは監査部門に属していない僕が書いているので、かなりアドバイザリー部門に贔屓している内容になっていることは自覚しています。監査部門の人で「そんなことないよ」という意見がありましたら是非コメントください。

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