監査法人に英語力は必要なのか

今回は、監査法人で働く場合に英語力は必要になるのかということについて書いていきます。

監査法人で働くことに興味があるんだけど、正直英語ってどの程度必要になるのかな?実は英語力に自信がなくて・・・。

僕は現在USCPAとして監査法人で働いています。これまで色んなプロジェクトに参加してきたので、それらの経験を踏まえて具体的に監査法人でどの程度の英語力が求められるのか説明します。

目次

  • 監査法人で働くのに英語力は必要なのか
  • 監査法人の出世に英語力は必要なのか
  • 監査法人への入社に英語力は必要なのか

ちなみに、今回はUSCPAに限った話ではなく、監査法人全体としての話になるのでその点はご留意いただければと思います。では、さっそく内容についてみていきましょう。

監査法人で働くのに英語力は必要なのか

さて、監査法人に英語力は必要になるのかという疑問に対する回答ですが「参加するプロジェクトによって大きく変わります」というのが実態です。ハッキリとした回答になっていませんが、ここから書く内容を見ていただければなぜこのような回答になるのかよくわかると思います。監査法人において、本当に全くと言ってよいほど英語を使わないプロジェクトもあれば、ガンガン英語を使うプロジェクトもあり、どこに参加するのかによって天地の差があるのが実情です。TOEIC700点あればOK、という話ではないのです。

そこで具体例として、僕がこれまで参加してきたプロジェクトでどのようなことをしてきたのかを書いていきます。この説明を通じて、監査法人で必要になる英語力がどれ程プロジェクトによって大きく変わるのかを感じていただければと思います。

ケース1:ガチで英語力が必要になったプロジェクト

1つ目のケースは、ある金融機関が外国の金融機関を買収し、その外国子会社にJ-SOXの導入をするサポートのプロジェクトに参加したものになります。

今回は英語力の話なので深く書きませんが、J-SOXとはざっくりというと日本における内部統制報告制度のことで、米国のSOX法をパクって日本に導入されたものになります。誤解を恐れずに単純に表現すると「日本の上場企業はグループとしてちゃんとした企業統治体制を取ってくださいね」というものになります。つまり、海外子会社においてもJ-SOXで求められる制度をしっかり整備・運用している必要があるのです。

ところが、買収される側の海外会社からしてみると、J-SOXなんて見たことも聞いたこともないわけです。そこで、グローバルに展開している大手の監査法人に「子会社にJ-SOXを導入する手伝い」を依頼し、そのアドバイザリー役として監査法人がプロジェクトに参加するわけです。

そのプロジェクトでは、基本的に以下のメンバーが参加することになります。

プロジェクト参加者

  • 日本側の親会社
  • 買収される海外の子会社
  • 日本の監査法人(僕が所属)
  • 海外子会社の国の監査法人

ここからは、実際にプロジェクトをどのように進めていったかについて大まかに記載します。どのように英語が使われているのかだけ感じてもらえればと思います。

まず、会議は全て英語で実施します。週1回の進捗会議で、もちろん海外勢も含めてプロジェクトメンバー全員が参加なので、全て英語で進行します。議事録についても会議後に共有されるので英語で作成する必要があります。

また、プロジェクトに必要となる資料も基本的に英語で作成します。例えば、J-SOXで求められる要件の一部に、「こういったことが会社として出来ているよね」というチェックリストがあるのですが(興味がある人は「全社統制 チェックリスト」等で検索してみてください)、そのチェックリストを全て英訳し、海外の子会社に共有します。

要するに、J-SOXで求めるものを海外子会社が備えているのかを確認し、備えていない場合は、海外子会社に整備してもらう必要があります。例えば、経理規定が存在しない場合は、経理規定を作成してください(実際にはあり得ないと思いますが、あくまで例として)という感じです。この依頼も英語、作成された成果物も英語、レビューとフィードバックも英語となります。

色々と書いてきましたが、このプロジェクトでは「J-SOX(つまり内部統制)」に関する知識を基にした英語のリーディング、リスニング、スピーキング、ライティングのすべてのスキルについてビジネスレベルを求められました。

実際に会議の場でメインスピーカーを務めるのは英語が得意な上司だったりするのですが、だからと言って自分が何もせずにいると「君ってなんでいるんだっけ?」という話になってしまいます。そのため、このプロジェクトに参加することになった場合、社会人として役に立つためには、上記のような環境で何かしらの貢献が出来るレベルの英語力が必要になります。

ケース2:英語力がガチで不要なプロジェクト

監査法人には英語を全然必要としないプロジェクトも多数存在しています。というか上記のような英語をバリバリ使うプロジェクトの方がレアであり、基本的に英語をあまり使わないプロジェクトが大半になります。

例えば、以前に書いた監査法人の業務紹介で「合意された手続(AUP)」という業務では、一切英語を使うことはありませんでした

業務の開始から終了まで、英語に触れることはありません。この業務であれば(やりたいかは別にして)英語が苦手な人でも全く問題なく業務を遂行することができます。

このような例は極端すぎますが、仮に監査に携わることになったとしても、英語を使うかどうかはクライアントのビジネス次第になります。グローバルに展開しているクライアントであれば、必然的に英語を使う機会も増えてきますし、ドメスティックに完結しているクライアントであれば、英語を使う機会はほとんどないと言えます。

また、外資系のクライアントの場合は、クライアントで応対する人が外国人の場合があり、その場合は普通に英語での業務になります。

つまり、監査法人で働くうえで英語が必要になるかどうかは「参加するプロジェクトによって大きく変わる」というのが事実なのです。

監査法人の出世に英語力は必要か

続いて、監査法人で出世するのに英語力は必要なのかということを書いていきます。こちらも結論から書きますが、出世に英語力は必要になります。大手の監査法人では出世の条件の中にTOEICなどのスコアが一定以上必要となるケースもあります。

僕個人としては、プロジェクトによっては英語力なんてほとんど必要がないのに、社員全体に英語力の強化を求めるスタイルは頭が悪いと思います。ですが、世の中もグローバル化しており、クライアントがグローバル化に対応しているのに監査法人側がドメスティックな体制ではロクな仕事ができないということなのでしょう。英語が苦手な会計士には自分の専門分野を磨いてもらった方がはるかに有益なんですけどね。

ちなみにですが、僕が尊敬している会計基準にめちゃくちゃ詳しい先輩は、英語が最高に苦手で出世の条件を満たすスコアが取れなくてヒーヒー苦しんでました。これまでの経験を活かして一番効果的な英語勉強方法を伝えたら、何とか条件をクリアできたみたいです。英語は自分の成長がわかりにくいので勉強を続けるのが結構苦痛なんですよね。効果的な英語の勉強方法は少しこのブログでも書いていますが、いつか英語のスキル別、レベル別にしっかりとしたものを書きたいですね。

少し話がそれてしまいましたが、監査法人で出世するには一定の英語力は必要です。ただ、ある意味テストのスコアさえ取れてしまえばよいので、徹底的に対策すれば英語力と関係なしにスコアは上げることが可能です。一種の修行と思って取り組めば何とかなると思います。

監査法人への入社に英語力は必要か

では、監査法人へ入社するときに英語力は必要になるのでしょうか。こちらは公認会計士試験を突破した人に向けた定期採用(新卒一括採用のようなもの)と、転職時のキャリア採用によって変わってきますので、それぞれについて書いていきます。

定期採用

定期採用に関しては、実際に直接携わったことが無いので、あくまで推測ということを予めお断りしておきます。定期採用において、一番必要になるのはもちろん会計士試験を突破することなのですが、英語力に関しては「あったらいいな」くらいの重要度だと思います。仮にTOEIC700点程度の英語力がある場合、他の会計士試験のみに命を懸けてきた候補者との差別化が可能となります。簡単に言うと、会計士試験に加えて英語も勉強する余裕があった人というアピールが可能です。

キャリア採用(転職)

では、キャリア採用において監査法人が求める英語力はどうなのでしょうか。こちらも定期採用のときと同じで「英語力がないよりはあった方が良い」ということには変わりありません。ただ、転職者に監査法人が求める英語力は「プロジェクトによって変わる」側面もあります。英語を使用するプロジェクトに人が足りない場合は英語力がある人を求めますし、英語を使わないプロジェクトの場合は英語力は重視しません。

ちなみに、ちょっとした小技になりますが、自分の英語力が相対的に足りていない(例えばTOEIC500程度)場合、あえて履歴書には記載せず、面接のときに英語力を聞かれた場合は「昔受験したときは500点程度でしたが、そこからコツコツ英語を勉強していますし、これからも続けようと思っています」とでも答えてしまえばOKです。わざわざ自分の弱みを履歴書に記載する必要はありません。そして監査法人に入ることが出来たら「英語力が必要でないプロジェクト」を希望すれば良いのです。

まとめ

今回は、監査法人に英語力が必要なのかという点について、監査法人で働く場合、監査法人で出世する場合、監査法人に入社する場合に分けてみてきました。監査法人で働く際に必要となる英語力は、参加するプロジェクトによって大きく変わり、監査法人で出世するためには英語力が必要となります。また、監査法人に入社するためには英語力はあった方がお得ということになります。

監査法人に英語力は必要なのか” に対して2件のコメントがあります。

  1. あんこ より:

    はじめまして、以前からよく拝読しています。有用な情報・内容の濃い情報の発信ありがとうございます!私はUSCPAを取得して監査法人に勤務2ヶ月目の者です。2点質問があります。

    ①ワシントン州CPE取得について、会社を通じてCPEを貯めていくとしてもEthicsだけは外部業者を利用する必要があると書いていらっしゃいました。私も会社を通じてBig4のFreeウェビナーなどでCPEを蓄積しているところなのですが、WA州のEthicsはFreeのコースは存在しないのでしょうか?
    もしそうであればEthicsだけは外部業者で購入して会社にReimbursement申請しようとは思っていますが、ネット上に主に会社を通じてCPEを取っている方の情報が全く見つけられなかった(監査法人勤務の方でも意外とCPE depotやSurgent CPEを利用されている方が多い印象)のでこの場を借りて伺いました。

    ②私の会社は外部業者の利用はマネージャーの許可が必要なので、勤務初年度である今年はとりあえず会社を通じてBig4やBDOアライアンスのウェビナー視聴でCPEを貯めていきたいと思っていますが、貴ブログ管理人様が心配されていたように、あとになって要件を満たせていなかった!となるのが怖いですし1時間以上ウェビナーを視聴する時間ももったいないので、来年度以降は検討中です。管理人様は現段階では外部業者利用せずとも大丈夫そうだと見込んでいますでしょうか?

    お手すきの際にお返事いただけたら嬉しいです。ブログこれからも楽しみにしています!

    1. accountingworld より:

      あんこさん
      コメント、そしてありがたいお言葉ありがとうございます!質問に答えさせてもらいますね。

      1.ワシントン州Ethics
      こちらについては、現状外部業者で取得する以外の方法は僕が知る限りでは無いように思います。ご存じの通り僕も更新の際は毎回CPE Depotのコースで取得しています。
      CPEコースの立替経費精算については出来る会社と出来ない会社があると思いますので、一度ご相談されてはいかがでしょうか。
      2.監査法人内のコースについて
      監査法人内で提供される研修については、研修ごとにUSCPAのCPE単位が何単位かわかるようになっていたと思いますが、もしかしたら他法人様では事情が異なるのかもしれませんね。
      ちなみにですが、僕は最近全てCPE Depotで単位を取得するようにしています。年間フィーを支払えば単位取り放題なので、結局は一番無難だと考えました。

      なんとなくですが、監査法人内のルールが僕の所属しているところと異なる印象を受けました。一度所属されている監査法人内でUSCPAの先輩を見つけ、ガンガン質問してみるのも良いかもしれません。
      参考になれば幸いです。

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