会社をすぐ辞める人は監査法人が向いてる説

今回は、会社をすぐに辞めたくなる人は、監査法人が向いているのではないかという話をしたいと思う。僕はこれまで、人生で何度か転職を経験している。新しい会社に入った当初は「ここで頑張ろう」と思うのだが、大体1~2年くらい経つと何かしら嫌なことが発生し、それに耐えきれなくなり辞めてしまうのだ。大学時代の友人と飲み会などで「転職する勇気があるなんてすごい」という謎の褒め言葉を貰うことがあるが、僕から言わせてもらえば同じ組織に長く居続けれらることの方がはるかにすごい。きっと、僕は同じ組織に長く居続けることが出来ない体質なのだと思う。

転職の実体験

例えば、僕が大学を卒業して最初に就職した会社は、地方に本社がある割と規模が大きいグローバル企業だったが、1年程度働いたときに「その会社の社風」と「本社がある街の雰囲気」がどうしようもなく我慢できなくなった。失礼な話だが、自分はこんなところで終わるような人間じゃないと本気で考えていた。そのため、どうしても日本の首都である東京に進出したくて転職活動を始めたのだが、一番最初に東京に本社がある会社と転職面接した際に「どうして今の会社を転職しようと思ったのですか」と質問され、僕は「本社が〇〇(地方)にあるからです。全力で仕事をして出世をすればするほど、本社での勤務が前提となり、生涯を通して地方に居続けるという人生がどうしても許容できませんでした。」と真面目に回答した。その時「は?」という感じの顔で「働くのは別に東京じゃなくても良いですよね?」と突っ込まれたときは「経験したこともないのに黙れよ」という言葉が口から出るのを我慢するのに必死だった。

この時、僕は「例え嘘だとしても、転職理由はしっかりした一貫性のあるストーリーを創り上げる必要がある」ということを学んだ。面接官といえど普通の社会人なので、一貫したストーリーで説明されると「そんなものか」と納得するのである。決して転職理由の本心が「東京に出たい」というものだとしても、面接官は応募者の心を理解できる経験も感性も持ち合わせていないのが現実だ。彼らが欲しいのは、本当の理由ではなく、自分が納得できるストーリーなのだ。

恐ろしく話がそれたが、こういった感じで僕は1つの会社にとどまり続けると、何かしらのことが嫌になってしまう性質なのだ。念願叶って東京本社の会社で働き始めたときも、2年ほど働いた後に直属の上司の残念さにどうしても我慢できなくなった。転職してからの2年間は普通に周囲の人間にも恵まれて、何も不自由なく社会人生活を満喫していたのだが、組織変更に伴い直属の上司が変更となり、新しく上司となった人が、悪い人ではないのだがあまりにも頼りなかった。自分で何かを決めるということは一切しないし、他の部門との調整も、相手の要求を全てのみ込むという始末だった。

日々を過ごすにつれて、ポンコツ上司の下で自分が仕事をしているという事実に耐えられなくなっていった。この記事を読んでいる人からすれば「いやそれくらい我慢しようよ」と思えるような些細なことかもしれないが、当時の僕にとっては本当に耐えられない事態だった。そして、再び転職活動を始め、運よく今所属している監査法人に拾ってもらい、軽い気持ちで入所したのだが、これが自分の性質と大当たりだった。

正直、監査法人に転職したときは「数年間、知見を蓄えて事業会社に戻り、CFOでも目指す人生になるんだろうな」とぼんやり考えていたのだが、気が付けばかなり長い間監査法人で勤務することになっていた。そして、今でも監査法人を辞めようとは思っていない。その理由を考えてみたのだが、「多分こういう理由だろうな」というものが自分の中でしっくり来たので、今回はその情報をまとめていきたい。カギとなるのは、監査法人における勤務形態が一般的な事業法人とかなり異なる特殊なものになるからだと思う。では、さっそく監査法人の勤務形態についてみていきたい。ちなみに、僕が所属しているのは監査法人の中でも監査部門ではないアドバイザリー関連の部門なので、コンサルのようなものだと思っていただければ間違いではない。

監査法人における勤務形態

監査法人では、基本的に「プロジェクト」の単位で仕事を進めることになる。もちろん、監査法人勤務であっても、人事部や総務部といった管理部門が存在し、そちらは一般的な事業会社と同じような勤務形態となるが、それらは例外なので、今回は普通に会計士(あるいは候補生)として監査法人に勤務する場合についての話とする。

さて、プロジェクト単位で仕事が進むということが、なぜ仕事を辞めやすい人に適しているかについてだが、これは「プロジェクト単位で様々な要素が変わるため、嫌になる前に環境を変えることが可能」ということが大きい。このことについてもう少し詳細に記載していきたい。

プロジェクト単位で働くということ

繰り返しになるが、監査法人はプロジェクト単位での仕事になる。僕は事業会社で働いていたときはイメージが付かなかったが、監査法人はクライアントと「〇〇の支援をします」という契約を締結して初めて仕事が発生する。その支援に関してプロジェクトが立ち上がり、プロジェクトリーダーが法人内の各メンバーの中から誰をアサインするか話し合い、選ばれたメンバーがそのプロジェクトに参加するという業務形態になっている。このあたりについては別途また記事を書こうと思っているが、例を挙げると、以下のようなプロジェクトがあげられる。

  • メガバンクに対するUS GAAPでの決算支援
  • メーカーに対する内部統制運用支援
  • 子会社設立に伴う内部統制構築支援
  • 金融機関に対する金融規制対応支援

例を挙げればキリがないが、Big4の監査法人アドバイザリーであれば大量のプロジェクトが同時に走っているのは間違いないと思う。各メンバーは、それぞれのプロジェクトに対してアサインされ、それぞれのプロジェクトがうまくいくように必死こいて働く必要があるということだ。そして、プロジェクトが忙しい時期が終わると、次のプロジェクトにまた参加するという流れが基本となる。

つまり、入社して1年間はメガバンクに対する金融規制への対応を支援するプロジェクトに参加し、1年後にそのプロジェクトがひと段落した時点で別のプロジェクトするといった流れだったり、IFRSを適用している会社が日本基準で作成した財務諸表をIFRSにコンバージョンするのを支援するプロジェクトに参加し、各四半期決算(つまり繁忙期)が終わり次第、暇になるため別のプロジェクトに参加するという流れが普通にあり得る。

このように、数年単位、あるいは数か月単位(早い人であれば数週間単位)で参加するプロジェクトが変わることによって、以下のようなことが発生する。

法人内の関係者が変わる

まず、プロジェクトが変わることによって法人内における関係者が変わることになる。もちろん場合にもよるが、以下のような法人内の関係者が変わることになる。

  • 担当パートナー(邪魔だけど偉い人)
  • 上司(邪魔な人)
  • 先輩(色々教えてくれる人)
  • 同僚(一緒に仕事する人、ライバル)
  • 部下(色々教える人、雑用を頼む人)

これだけ変わると、はっきり言って全く違う会社に入ったのかというくらいに雰囲気は変化する。僕がこれまで参加してきたプロジェクトは多数あるが、雰囲気が似ているプロジェクトというものはほとんど無かった。別の部門の人たちとも協業することもあるが、その場合はさらに違った空気を楽しむことが出来る。

仕事内容が変わる

これは監査部門ではなくアドバイザリー部門に特有の話になると思うが、業務内容もプロジェクトによって変わることが多い。もちろん「会計」「内部統制」といった軸が一貫していることが多いが、それでもプロジェクトの内容によっては大きな差があるのが基本だ。これにより、プロジェクト新しいプロジェクトに参加する都度、ある程度の知識のキャッチアップが必要にはなるが、逆に言えばいつでも成長ができる環境が用意されており、後は自分次第ということだと思う。

クライアントが変わる

もちろんプロジェクトが変わるということは、相手となるクライアントも変わることになる。プロジェクトによって相手の業界、会社、部門が異なることが多いので、本当に業界によって空気が違うことがわかって非常に楽しい。人に焦点を当ててみると、どう考えてもパワハラしている人、人が良すぎてこちらが心配になる人、めちゃくちゃ厳しいけど一緒に働くと成長を感じられる人など、プロジェクトごとに多種多様な人が相手となるので飽きる暇がない。

勤務場所が変わる

プロジェクトが変わると、勤務場所が変わることになる。もちろんこれは、そのプロジェクトにおける執務場所がクライアント先となる場合に限る。仮に執務場所がクライアントオフィスでなかったとしても、監査法人の事務所、自宅等、勤務場所は色々と変わることになる。僕の場合も、これまで東京都内はもちろん、東京以外の都道府県に本社がある会社のオフィスへ行くこともあり、様々なオフィスの中身を見ることが出来て貴重な経験が出来ていると感じている。複数のプロジェクトに同時にかかわっているときは、曜日によって出勤する場所が異なるときもあり、これはこれで大変なんだけども。

このように、プロジェクト単位で働くことにより、職場環境をガラっと変えることが出来るのだ。これは言い換えると、自分が耐えられない環境になった場合、プロジェクトを変えることでその状況から抜け出すことが出来るということである。これはほとんど同じポジションで数年間過ごすことになる事業会社とは大きく異なる点だと思う。ただ、そうはいっても簡単にプロジェクトを変えることが出来ないのではないかと思われるかもしれない。実は、自分がかかわるプロジェクトを変えるのは事業会社と比べるとめちゃくちゃ簡単だ。その点について少し述べてみたい。

プロジェクト間の異動は簡単

上記のようにプロジェクト単位で働く特徴をあげてきたが、そのプロジェクト間の異動が簡単にできない場合は全て絵に描いた餅となってしまう。事業会社で働く環境を変えるのは部門の異動に該当すると思うが、一般的に会社内の部門の異動は非常に難易度が高いものであると思う。少なくとも僕が過去に所属していた会社における社内公募制度は形骸化していたし、監査法人にも部門間の異動(金融部から製造業部へ等)をできる制度はあるが、プロジェクト間の異動に比べるとかなり門戸は狭くなっている。

結論を言うと、プロジェクト間の異動は部門間の異動と比べると全く珍しくない。まず、数年以上続いている安定した長期のプロジェクトは繁忙期と閑散期が決まっている場合が多く、繁忙期にはいろんなメンバーを受け入れるが閑散期になるとコアメンバーを除いて全員リリース(プロジェクトから外れるということ)されることが基本である。リリースされたメンバーは別の繁忙期を迎えそうなプロジェクトに入るか、短期のプロジェクトのメンバーとしてアサインされる。これが基本的な流れである。つまり、プロジェクトの中での人の出入りは日常的に行われていることであるため、プロジェクト間での人の異動は珍しくとも何ともない。

何が言いたいのかというと、プロジェクト単位で働くことによるメリットはほぼ間違いなく受けられるということだ。特にまだ監査法人に入りたてのころは、数週間から数か月単位でプロジェクトが変わり続けることも当たり前の世界となる。つまり、監査法人で働いている人間は「プロジェクトから人が抜ける」という状況が当たり前という認識になっている。

実は、僕も過去にプロジェクトにいた上司があまりにもきつくて、人事部の人間に軽く相談したことがある。するとあっという間に話が進み、自分が希望するプロジェクトにあっさり異動することが決定した。「あ、これは自分に向いてるわ」と思ったのは言うまでもない。もちろん普段から自分の仕事をしっかりしていないと意見が通ることはないかもしれないが、ある程度頑張っていれば普通に意見が通りやすいのは非常に助かった。

まとめ

ここまでで僕が言いたかったことは、プロジェクトが変わると、ある意味転職したのと同じような効果を得ることが出来るということである。そして、監査法人の人間はプロジェクトが変わることが当たり前という認識を共通認識として持っているため、異動に対して特にネガティブな印象を持たずにあっさりと実現する。これにより、自分が不快だと思う環境から非常に逃げやすい。これは、同じことを続けると何かしら耐えられなくなることが発生してしまう僕のような体質の人にとってはほぼベストな環境となる。

僕は監査法人に入って数年以上経過しているが、「辞めたい」と軽く思ったことは何度もあるが、これまでの会社のように「うん。もう不快すぎてどうでも良いし辞めよう」と賢者のような悟りを開いたことはいまだにない。

「自分には辞め癖があると思ってたのに、監査法人勤務が長く続くのはどうしてだろう」と、軽く振り返ってみたら今回の記事のような仮説が出来上がったので、僕と同じような境遇にいる人に届けば良いなと思って書いてみることにした。この記事を読んで一人でも監査法人のアドバイザリー部門に興味を持ってくれる人がいればうれしい。

会社をすぐ辞める人は監査法人が向いてる説” に対して2件のコメントがあります。

  1. レタス より:

    育休中にUSCPA試験勉強をはじめ、こちらのブログにたどり着きました。
    おそらく境遇が似ているのか、転職〜監査法人での働き方についての記事も興味深かったです。
    USCPAを取得してからのその後など、今後の更新を楽しみにしております!

    1. accountingworld より:

      レタスさん
      コメントありがとうございます!今後もUSCPAや監査法人の情報を中心に更新していきますので、よろしくお願いします!

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